作品ジャンル:

文芸 / ホラー / ミステリー / SF / その他 / 恋愛 / ファンタジー

作品数:

483

総文字数

1,796,511

総話数

993

最終更新日

2023年09月28日 11時00分

作品投稿開始日

2021年06月23日 21時02分

この作家の更新小説

  • ある町の人々 雉猫書屋

    その青年はいくつもの紙袋やビニール袋を抱えて歩いていた。それらは全て道行く人に貰った物である。知り合いと言うわけではない。この作品は雉猫書屋(fc2)にも掲載しています。

  • 捕食者 雉猫書屋

    保高は公園の外灯を見ていた。

  • パンドレポス 雉猫書屋

    人混みの中を歩いていると誰かが「パンドレポス!」と甲高い声で叫んだ。

  • そこでしか見えない景色 雉猫書屋

    僕は山奥にある小さな洋風の家でコーヒーを飲んでいる。だけど僕はここの家主じゃない。じゃあ、客かと言うとそれも少し違うと思う。僕がここを見つけたのは偶然だった。

  • 人ならざるもの 雉猫書屋

    深夜散歩中、興が乗っていたのか思いのほか遠くまで来た。川と山の間にある大きな広場。刈り揃えられた雑草が緑の絨毯のようで眼に優しい。深く息を吸い込み肺を新鮮な空気で満たしていると遠くで白いものが動い...

  • ヒマワリ畑 雉猫書屋

    私は近所のヒマワリ畑に行くのが好きだった。畑は広大でそれに相応しくヒマワリも巨大だった。(私が小学生だからということもあったからだろうが)ヒマワリを掻き分け中に入り、好き放題駆け回る。疲れて見上げ...

  • 人魂 雉猫書屋

    墓場の横を通り過ぎようとした時、青白い光を目にした。人魂・・・・・・そうとしか言いようがない青白い炎。近づいてみる。逃げない。意思はあるのだろうか?そっと触れてみようと手を伸ばす。

  • 歯音 雉猫書屋

    頭の中に霞がかかっていた。自然と開け閉めを繰り返す瞼。体を伸ばすと小さな息が漏れた。・・・・・・いつの間にか眠っていたようだ。だが無理もない。電車に乗るのは好きだ。心地よい揺れ。暖かい座席。ガタン...

  • 天上の楽園 雉猫書屋

    私は死んだ。ゆらりゆられて漂うは、緩やかな流れの小川に浮かぶ落ち葉のようでもあり母に抱かれる赤子のようでもある。ともかくも霧のような白い世界で夢うつつの私はどこへ流れていくのか。しばらくはそのまま...

  • 壁の絵の女 雉猫書屋

    その絵との出会いはコンビニに近づいたその瞬間だった。視界に入ったそれを最初、白い外壁にへばりつく巨大な黒い虫だと思いツツツッと背骨を指でなぞられた様な気分になったのだが足を止めよく見ると目が合った...

  • 首狩り男についての考察 雉猫書屋

    地下道から出ると雨に迎えられた。水滴が落ちてきていたから、そんな予感がしていたが小さなため息が出た。店がいくつか並んでいる、そのうちの一つの店先の陳列台の上で商品が雨を浴びているが店主は雨に気づい...

  • 聖火 雉猫書屋

    おっと。皿に乗った鮭を箸でほじくる俺を見て店主が怪訝そうな顔をしていることに気づいた。失敗失敗。つい仕事のことを考えていた。ごまかすようにコップの水を飲む。美味い、美味いよ。水も定食も。だからそん...

  • マリーさんです 雉猫書屋

    「私、マリー。今あなたの部屋の向かいのマンションにいるの」マリー?メリーさんをもじったものだろう。妙なオリジナリティを出しやがって馬鹿が。知らない番号だが、恐らくあいつの悪戯だろう。電話を切ってグ...

  • 視線 雉猫書屋

    ただの偶然だった。そう偶然。自然豊かな公園。夜中ジョギングをしていると、林の奥に何か妙なシルエットがあることに気づいた。木に吊るしたサンドバッグか?近づく僕が踏んだ落ち葉と枝が音を鳴らし林がスズメ...

  • ボーバトンの悲劇 雉白書屋

    被害者はエムスタル校の生徒、ボーバトンである。彼は寮の自室にて何者かによって殺害された。ルームメイトにして第一発見者のタミーは机に突っ伏すボーバトンを見てすぐにただ事ではないと気づいた。それはボー...

  • アイドルに 雉白書屋

    幼いころからアイドルに憧れていた。見た目は悪くないと子供ながらに自覚していた上に理解ある両親のおかげで私はアイドル養成スクールに通わせてもらい順調に道を進んでいた。けれど、その邪魔となる石ころ、い...

  • 地下室のネズミ 雉白書屋

    その少年は吐き気を催していた。だが、それは車に乗っているせいじゃない。ネズミ色の道路を走り続けても一向に目的地に着かないのは自分にとってそう悪くないこと、そう思っていた。彼にとって悪いことというの...

  • 処刑室に音楽を 雉白書屋

    「処刑室に音楽を流して欲しい」そう申し出たのは一人の死刑囚だ。名前は二十六番。当然本名ではない。だが実際に彼はそう呼ばれていた。独房に食事を差し入れた看守は返事することなく「馬鹿な事を」と鼻を鳴ら...

  • 一秒でも速く死にたい 雉白書屋

    ああ、俺は死ぬんだ。走馬灯って嘘じゃん。ないじゃん。絶対に死ぬ。だって血が・・・・・・骨が・・・・・・。あんなトラックに撥ね飛ばされたらそりゃ・・・・・・。ああ、意識が・・・・・・。あれ?気づけば...

  • ザ・デスゲーム 雉白書屋

    水色の照明が部屋を照らし、白い壁と床はされるがままにその色に染まる。我々の六人の顔も例外ではない。その色の下に緊張、自信、怯え、様々な表情を浮かべ白い大きな台座を囲んでいた。台座は床よりも少し高い...

  • 雪だるま 雉白書屋

    やめろ・・・・・・やめてくれ!テレビに映るその雪だるまに誰かの手が触れるたびに俺の胃も触れられ、揉みくちゃにされてる気分になる。そんなときは決まって吐き気がこみ上げてくるが便器の中に顔を突っ込んで...

  • そう、ただの・・・・・・ 雉白書屋

    そう、そこだ。そこのコンクリートの壁から突き出て垂れ下がる雑草の一群。逞しい、生命力の象徴。しかし転じてそれは私が近づけば瞬きの間に髪の毛垂らす女の顔上半分に変わり、私を睨みつける。――そう、ただの...

  • 最後の時間 雉白書屋

    周りの景色がゆっくりだ。ああ、これが死ぬ前に見る走馬灯ってやつか。その割に昔の思い出は蘇ってこないが。自分で思い返すしかないか・・・・・・。と言っても、もうあまり覚えていないがな。歳のせいだ。長く...

  • 地獄は満員です 雉白書屋

    ある日、あるところで二人の男が殺し合いをしていました。「アンタを殺して俺が組を貰う」「ざけんな三下が!」互いに匕首を振りかざし、体を斬り合います。戦いは互角。でもいつまでも続くものではありません。...

  • マリーさん人形 雉白書屋

    フフ・・・・・・。フフフ・・・・・・。フフフフ・・・・・・。フフフフフ・・・・・・。不気味な笑い声。周囲を駆け回る足音。そしてそれは一切の淀みなく、淡々と告げる。「あたしメリー。今 あなたの後ろにい...

  • 悪魔は囁き天使は怒鳴る 雉白書屋

    俺の頭の中には天使と悪魔がいる。そいつらは俺が選択を迫られた時に現れるんだ。妄想?イカれてる?どうだっていいさ。大事なのはそれが俺にとって事実だと言うこと。そして今・・・・・・。「ねぇ・・・・・・...

  • 死にたいと呟く、この世界 雉白書屋

    「死にたい」そう呟いた少女。騒がしい教室の中、机に額をつけた孤独な少女のことを気に留める者はいなかった。彼女が息絶えていることに気づいたのは放課後になっての事である。発見者は施錠のため教室の見回り...

  • 雉白書屋短編集 雉白書屋

    ショートショート・短編・掌編。ジャンル・長さは色々です。奇妙だったり不穏、理不尽、ホラー、王道、パロディ、ハチャメチャクチャ、おふざけ、実験的、くだらなかったりなど。基本、オチは用意しているつもり...

  • 天国は工事中です 雉白書屋

    「あっ!てめぇは山上組の!」「てめぇこそ川下組の!」「「殺してやる!」」「・・・・・・いや、もう死んでるんだな俺ら」「あぁ、そうだった。しかしこの場所は」二人の男は辺りを見回した。後ろと横には雲の...

  • 渇求 雉白書屋

    「キュリオン」は繁華街からやや離れたところに構える落ち着いたバーである。宗慈は閉店間際、馴染みの客、もはや友人と言っていいその男と二人で談笑していた。と言っても主に宗慈は友人の「狙ったとおりあの女...

  • 手術後 雉白書屋

    「気分はどうですか?」「うぅうー・・・・・・ああ、そうか・・・・・・手術終わったんですね」「えぇ、そうです。まだ麻酔が効いているから意識がぼやけているとは思いますが、そのうちハッキリしますよ。・・...

  • クローゼットの中の怪物 雉白書屋

    僕の部屋には古びたクローゼットがある。前にこの家に住んでいた人が夜逃げしたのか何なのか置き去りにされた家具の一つだ。僕のパパとママはこれ幸いと処分することなく、そのまま使うことを決めた。部屋を貰え...

  • 傘の下の涙 雉白書屋

    穏やかそうな人。客観的に見るとそんな印象を受ける。駅の改札口を出た先に立つ男性。痩身で初老。白髪交じりの黒髪。前から後ろへ撫で付けたような髪型。スーツに前を開けた黒いトレンチコート。温和そうな笑顔...

  • 金はあの世に持っていく 雉白書屋

    「何度、そう見舞いに来てもワシの結論は変わらん。金は全てワシの物だ!」「親父!」「お祖父ちゃん・・・・・・」腕を組む老人を見つめる、いや、睨む親族たち。一昔前なら「金はあの世に持っていけないぞ」と...

  • その者 雉白書屋

    その者はどこから現れたのか言いませんでした。それどころか何も言葉を発しません。初め、私たちはその風貌からその者を警戒して、近寄ろうとはしませんでした。しかし、その者は何もないところから火を出して見...

  • 崖の上の家 雉白書屋

    霧が出ていた。その中にぼんやりと明かりが見える。こんな場所に?気になった青年が近づいてみるとそれはこじんまりとした洋風の家だった。目立つ場所に看板がつけられている。『ようこそ』そう書いてあるなら遠...

  • あの星を君に 雉白書屋

    星空の下、二人のカップルが身を寄せ合っている。冬の夜の澄んだ空気。車を走らせ見晴らしのいい丘に来たかいがあったというもの。「あの星を君に取ってあげるよ」青年はそう言うと、夜空に手を伸ばした。

  • 平凡な顔 雉白書屋

    【顔写真を送って素敵なプレゼントをゲット!】時谷はSNSでその投稿を見つけ、応募した。――ま、どうせ顔が良い奴が選ばれるんだろうがな。時谷は自分の顔に自信があるわけではない。平凡な顔だから別に人に見られ...

  • 誘惑に駆られ 雉白書屋

    「ゴホッ!ゴホゴホ!」咳をしては再び吸い込んだ煙でまた咳き込む。クソッたれのバカデパートめ。実演販売だか何か知らないが屋内で大規模にバーベキューなんかしやがるからだ。まあ、その無料につられてきたん...

  • 過程 雉白書屋

    久々に老夫婦が営む小料理屋に来た。通い始めた辺りで休業したから心惜しく思っていたのだ。店内は変わらず落ち着いた雰囲気。木のカウンターのこの手触りがまた良いんだ。しかし、リフォームをしてたってわけで...

  • プロポーズ失敗大作戦 雉白書屋

    「っ買って来いっつたろーがよぉ!」「チッ、死ねばいいのに・・・・・・」荒れ狂う妻、掃き捨てるように死ねと言う娘。どうしてこんな地獄に陥ってしまったのだろう。結婚当初は・・・・・・なんて回想に入るこ...

  • 謝罪会見 雉白書屋

    「えー、この度は・・・・・・大変、申し訳ございませんでした!」町長は集まった報道陣に対し、深く頭を下げた。それを合図にカメラのフラッシュが飛び交う。顔を上げた町長は再び口を開いた。「私の軽率な発言...

  • 幽霊の髪は伸びるだろうか? 雉白書屋

    幽霊の髪は伸びるだろうか?  もし、自分が死んだことに気づいていない幽霊がいたとしてその幽霊の髪の毛は伸びるだろうか?死後のフワフワとした緩慢な脳で疑問も持たず断片的な日常の記憶を辿り、生きていた...

  • 透明薬 雉白書屋

    「博士!博士!」「おお、君か。早いな、まだ連絡して十分も経っていないと思うが」「はぁはぁ、そりゃ、自転車を飛ばしてきましたからね!はぁはぁ、そんなことよりもできたって本当ですか!?」「ああ、これだ...

  • 善良なる子供達 雉白書屋

    いつ頃から彼らを見かけるようになったか。多分、春頃だと思う。そう、出会いの季節。暖かな日差しの朝。あの日、私はあの少年に出会った。「落としましたよ」少年が手渡したのは私のハンカチ。それよりも目が行...

  • ははははははははは 雉白書屋

    「ぷぅー!」「はははははっ!」「サイコー!」「ははっあはははは!」「似てる似てる!」・・・・・・おならの音の声真似。くだらない。本当にくだらない。でもそれをみんなが笑っている。つまらないのに。ギャ...

  • 情報源 雉白書屋

    部屋でくつろいでいたところ、電話が鳴ったので手に取った。どうせセールスか何かだろう。固定電話なんてもう解約してもいいかもしれない。「はい」「あ、どうも。えー、こちらのお宅は――」驚いた。何とこの電話...

  • 不思議な魅力 雉白書屋

    雑貨屋、というより個人コンビニといったところか。オレンジ色の看板。薄汚れたガラスの引き戸。打ちっぱなしのコンクリートの床は皺のようにひび割れている。監視カメラは・・・・・・なさそうだ。実入りは少な...

  • 置手紙 雉白書屋

    陶器の狐の置物がいくつも並ぶ小さな神社の賽銭箱に一円玉を投げ入れ手を合わせた。信心深くはない。そう、冷やかしにも似た行い。天啓などありはしないだろう。求めてもいない。神頼みでどうにかなる問題じゃな...

  • ループ・ザ・ループ 雉白書屋

    季節は春。日中は少し暑いくらいだが夜は涼しく快適だ。帰り道を歩く、この足取りも軽い軽い。今日は何をしようか。明日の英気を養わねば、そう酒だ。酒。どこか女の子がいる店でも・・・・・・っと不審な奴だな...

  • ホームランを求めて 雉白書屋

    ――カキーン!青空に伸びる金属音。ああ、この音。最高だ。やはり野球はいい。まあ打ったのが相手チームなのはいただけないがそれでも試合は接戦だ。どういうわけかこの草野球場、ホームランがバンバン出る。やは...

  • マトリョーシカ 雉白書屋

    その青年は部屋で一人、昔見た映画のワンシーンを思い出していた。無人島に独りきりの男が人恋しさからボールに顔を描いて、話しかけると言うものだ。――こいつを拾ったのは、それが頭の片隅にでもあったのだろう...

  • 雉白書屋

    夕暮れ、かと思えばあっという間に夜が来た。どうも熱中しすぎたみたいだ。でも、それも仕方ない。黄金を目の前にしては。・・・・・・と言っても手に入れたのはこの小瓶を三分の一も満たさない量だ。でも満足。...

  • 没・没・没 雉白書屋

    目を開けると窓の外に田園風景が広がっていた。どのくらいの間眠り、どこまで来たのだろうか。・・・・・・なんて気にしなくていいのが電車での気ままな長距離旅のいいところだ。両腕を伸ばし、大きなあくびを一...

  • 大!演!説! 雉白書屋

    「で、あるからして皆様のご理解を得るべく私は誠意をもって――」クソッ。どれだけ喋ろうが声を大きくしようがこいつら全然聞く耳を持ちやしない。視線を向けたと思えば冷笑して立ち去りやがる。俺はこんな奴らに...

  • 天使の基準 雉白書屋

    人は誰しも頭の中に天使と悪魔を飼っているというそれは善い心と悪い心。落とした財布を交番に届けるか自分のものにするか。葛藤。良心の呵責。無論、この例に限らず選択の際は世のため人のためになることの方を...

  • 窮屈な場所 雉白書屋

    瞼を開けたにもかかわらず暗闇が目の前にあることにまず疑問を抱いた。今は夜か。このぼんやりとした感じ、俺は眠っていたのか。ではここはベッドの上。・・・・・・違う。妙な閉塞感、天井が近いのだ。しかし、...

  • ナイフの記憶 雉白書屋

    私はナイフ。物に魂や意識があるのか、なんて無粋な物言いは遠慮願いたい。私はこうして確かに存在するのだから。さて、私は一人の職人の手によって作られた。今から百数十年前の事だ。職人とは言うものの、彼は...

  • 気長な計画 雉白書屋

    「さあ、いよいよだ」私は目の前の宇宙船を見つめそう呟いた。まったく、人間って奴は可能性の塊と言うか為せば成るというか、とにかく私はやりとげた。ニュートンは落下する林檎を見て閃いたというが私はその昔...

  • 呪術師の殺人 雉白書屋

    ・・・・・・いい気なもんだ。寝息を立てて眠ってやがる。刑事は隣の席に座る老女を横目で見てその手からずり落ちそうになっている布をかけ直した。「・・・・・・うぉ!」「ひひひ・・・・・・」「なんだよ婆さ...

  • あの、あれ 雉白書屋

    「おっ、ちょうど良さそうなのがいるじゃないか。お前、声かけて来い」「は、はい!」「おいおい大丈夫か?ちゃんと警察学校出たんだろ?それも成績優秀だったと聞いているぞ」「は、はい!」「同じ返事を・・・...

  • 未来の娯楽 雉白書屋

    技術の進歩とは偉大かつ、目まぐるしくもある。時に大股で歩くように、また駆け出すように。今では全ての仕事をロボットがやっている。製造、販売、更には芸術の分野にまで手を広げた。才能の差に自信を喪失し、...

  • 計画の始まり 雉白書屋

    その試みを人類はパソコンやテレビ、スマホの画面の前で、熱心な者は現地で見守った。そのロケットに内包されているのは千にも及ぶ数の小型のポッド。一つが炊飯器ほどの大きさのその小型のポッドにはこれまた小...

  • ゲーム脳!脳! 雉白書屋

    「こら!タカシ!いつまでゲームなんてやってるの!」「はぁ・・・・・・」「ちょっと!溜息で返事するって何!?いい?ゲームはね、脳に悪影響を及ぼすのよ!溶かすの!わかる!?ゲーム脳っていうのよ!この前...

  • 犬の働き 雉白書屋

    朝、目を覚ました男は大きなあくびを一つ。そしてまた目を閉じた。二度寝。これが至福・・・・・・とそばによってきた犬が腕をカプり。散歩に連れて行けの合図だ。しぶしぶ男は早朝の散歩に出向く。帰ると朝ご飯...

  • デジャヴ 雉白書屋

    彼氏との初デート。この水族館に来たのは初めてだけど・・・・・・。この感じ、何故かしら・・・・・・。「どうしたの?浮かない顔をして」「ううん、何でもないの」私はそう笑顔を取り繕ったけどどうにも彼とい...

  • 私は神だ! 雉白書屋

    「私は神だ!おお、わが子らよ!私の話を聞いているのか!」嘆かわしいことだ・・・・・・。ビルの上で叫ぶあの男の事じゃない。頭のおかしなやつは世の中に一定数いるものだ。そしてそれはただただ不憫に思う。...

  • 便利な道具 雉白書屋

    居酒屋で久々の再会を果たした三人の男。そのうちの一人が神妙な顔をし、声を潜め言った。「・・・・・・なあ、便利な道具が一つ手に入るとしたらどんな物がいい?」

  • 夢の中の女の子 雉白書屋

    「どうして・・・・・・?どうしてあの子ばかり優しくするの!」「え・・・・・・?」可愛らしい女の子が目に涙を浮かべて女にそう言った。だが女はそれが何のことだかさっぱりわからないといった様子。「あの子...

  • 最高の料理 雉白書屋

    グルメであり、料理人でもある私の彼は最高の料理を食べたいと息巻いていた。幼い頃からその道を目指していたうえに優秀だった彼はあらゆる国の料理をマスターしそれら、またその組み合わせた料理を私に試食する...

  • 姿なき銃弾 雉白書屋

    とある国の会議室。国の指導者が苦渋に満ちた顔をしているしかし、それはただのポーズ。一国の指導者がそう容易く指示していいはずがないのだ。核兵器の使用なんてことを。しかし、彼は独裁者。もとより逆らえる...

  • 嘘つきクラブ 雉白書屋

    公民館のような雰囲気の建物に入った私はポケットからメモ用紙を取り出した。何度も出し入れしたからシワがついている。ここの地下一階。金曜日の夜、つまり今日が集会の日らしい。階段を下りドアを開けると、椅...

  • そのマッチは売り物ではない 雉白書屋

    その少女は何度振り払っても体に積もる雪と時折吹く風に身を震わせていた。吐く息にかざす指は血にまみれたように真っ赤だ。――もう駄目。少女は指を胸の辺りに持って行き、身を丸めた。その時、ポケットの中で何...

  • 発情の時代 雉白書屋

    カラカラカラと地面を駆ける落ち葉を踏みつけ、自動ドアを食い気味に通る。中は水族館のように薄暗く、落ち着いた雰囲気。しかし、目に飛び込んできた光景が私の心拍数を上昇させる。その理由。私にウィンクする...

  • 軋む音 雉白書屋

    風が強い、ある夜。女はベッドの上で溜息を吐いた。眠れない。その原因は――ギィィィィィギィィィィ・・・・・・この軋む音。正体はわかっている。このマンションの隣の部屋の住人が物干し竿につけたままにしてい...

  • 呪いの日本人形 雉白書屋

    梅雨が明け、寝苦しさを感じる夜だった。月の光に照らされ、一つの小さな影が背を伸ばす。その影が向かう先は一軒の安アパート。階段を一つずつ上がっていく。そして、目的の部屋の前で立ち止まった。鍵が開いた...

  • 正夢 雉白書屋

     夢を見た。起きて夢だと分かった瞬間、安堵の息を吐くほどの恐ろしい夢。悪夢。 駅から出た彼女が夜道を歩く。暗く、人気のない通り。 すると、車の陰から男が飛び出し、彼女の前に。彼女は悲鳴を上げ・・・...

  • オススメ 雉白書屋

    【現地に到着しましたらタクシー乗り場からこの会社のタクシーに乗り地図のこの道を通っていくように指示してください】「あい、わかった」

  • おかしな時代 雉白書屋

    「まったく、もう仕事なんてやめたい。面白みがない」「ええ、そうでしょうとも。わかりますよ・・・・・・」「はぁ・・・・・・大体ね――」 俺は仕事終わりにバーに立ち寄るのが好きだ。こうして隣の席に居合わ...

  • 異色 雉白書屋

     どうして僕の目はみんなと違うのだろう。お父さんは生まれつきだとか大人になれば、みんなと同じようになる。長い目で見なさいとか言うけどしっくりこないのは僕から目を逸らして言うからだろう。 僕を見るみ...

  • 宇宙からの帰還 雉白書屋

     気持ちの良い午後だった。空を見上げれば雲一つない・・・・・・はずだった。「あれは何だ」と誰もが目を細め、次に我が目を疑った。銀色の円盤としか言いようがない。 それがゆっくりと降りてくる。宇宙人の...

  • 押し売り 雉白書屋

    「あ」「ん?」「先生! お久しぶりです!」「お、おお。井口! 井口じゃないか!」「いやーまさかこんな道端で先生に出会うなんて思いませんでしたよ」「ああ、高校卒業以来だからあー、何年だ?」

  • 月額0円 雉白書屋

     格安スマートフォンが販売された。本体価格0円。そしてなんと月額0円なのだ。契約金がべらぼうに高いということもない。だが、当然裏がある。「裏」と言っても堂々とした・・・・・・堂々過ぎるものだが。

  • 身の振り方 雉白書屋

    「おい女。デカい胸してるな。揉ませろよ」「はい・・・・・・」「おい、そこの女、お前は尻だ。触ってやるからこっち向けろよ」「はい・・・・・・」「はー、つまんな。しょーもない体だぜ。おい、酒だ。そこの...

  • 超人です 雉白書屋

     夜、繁華街。笑い声と怒鳴り声が混じる喧騒の中、その者は現れた。水色と白を基調としたタイツのコスチューム。優しく吹いた風にマントがなびく。 取っ組み合いの喧嘩をしていた二人の男はピタッと動きを止め...

  • 通信 雉白書屋

     ぼんやりとした意識の中、ぼくは手を伸ばした。その先にあるのは電話。さっきから鳴っていてうるさい。目覚まし時計みたいだ。「はい、もしもし・・・・・・」「その声は・・・・・・ケイタくんかい?」「え、...

  • 怪盗参上 雉白書屋

     この世には窃盗症なるものがある。この男もそうだ。ストレス、満たされぬ想い、原因となるものは霧の中の怪物のようにハッキリとは正体が掴めず悩み、治そうと何度も試みては挫け、諦め、そして絶望。 もはや...

  • 素晴らしき家族計画 雉白書屋

    「おはよー」「おはよー!」 まだ起きたばかりでふにゃふにゃしている私の挨拶とは違ってお母さんの小川さんは元気に返してくれる。それを見て新聞を広げながら、ふふっとお父さんの大山さんが笑った。

  • 迫る手 雉白書屋

     ある夜、女は自室のベッドの上で目を覚ました。暗い。まだ夜中だ。でもなんだか目が冴えている。何か飲み物でも飲もうか。そう思った時だった。  体が動かない。 ・・・・・・金縛り。そう理解すると途端に...

  • タイムカプセル 雉白書屋

    「タイムカプセル・・・・・・懐かしいな」 配達された郵便物を開けた俊介はそう呟いた。小学校卒業の日。確かに学校に埋めた覚えがあった。知らないうちに集まって掘り返したらしい。それをわざわざ郵送してく...

  • 運命的な再会 雉白書屋

    「嘘・・・・・・」 私が漏らした声は拍手に掻き消されたけど私の体の中で確かに残響している。  嘘・・・・・・何で彼がここに?私の初恋の人。走馬灯のように高校時代の思い出が脳内を駆け、私の体を熱くする。

  • 亭主たるもの 雉白書屋

    「だからな、何度言えばわかるんだ!同じことを何回も言わせて申し訳ないと思わないのか!」「はい、ごめんなさい・・・・・・社長」

  • 手のミイラ 雉白書屋

     ある夜。あてもなく山の中を彷徨い続けた結果幸運なことに山小屋を発見した二人の女は、雪崩れ込むように中に入った。「しばらくはここに留まりましょう。体を休めたいし・・・・・・って何泣いているのよ」「...

  • 美人三姉妹 雉白書屋

    「ふぉ!」 変な声が出てしまった。いや、わかっていた。そして覚悟もしていたことだがまさかこんなふおおおぉぉぉ! ・・・・・・落ち着け俺よ。そう、思い返せ。冷静になるんだ。

  • 進め!探検隊! 雉白書屋

    凶暴な野人、バントゥーチン!とある国の密林の奥深くに生息し、近づく者に容赦なく危害を加える恐ろしい怪物!この日我々、増岡探検隊はその野人を捕らえるべく密林奥深くまで草をかき分け入った。待ち受けるの...

  • 姫と忠僕 雉白書屋

    「ねぇ、そこのあなた」「は、はい! 私でしょうか姫様」「そこにあなたしかいないでしょう? ホント馬鹿ね」「は、はい・・・・・・それで何の御用でしょうか?」「この城ってホント退屈だわ。そう思わない?...

  • 未来からのテレパシー 雉白書屋

     ――聞こえますか、この声が聞こえますか?「は? え?」 青年はそう呟き周囲を見回した後、取り繕うように咳払いをした。周りには誰もいない。ここは街中にある見通しのいい、ちょっとした広場。青年はベンチ...

  • スーパーパワースーツ 雉白書屋

    「スーパーパワースーツ」「・・・・・・」「スゥゥパァーパワァースーツゥ!」「いや、反応なかったからって言い方変えられても」

  • 大集団 雉白書屋

    「終わりだ・・・・・・」 ある日、空を見上げ一人の男がそう呟いた。いや、一人だけではない。全人類が呟き、あるいは思い、もしくは叫んだ。 彼らの視線の先にあるのは空に浮かぶ大船団。大小、様々な宇宙船...

  • 約束させられたホームラン 雉白書屋

    「伊達、おい伊達。何してる? お前の出番だろ」 とある野球場。自分の名前を呼ばれた彼は怯えた小動物のようにビクッと体を震わせた。 彼の名は伊達。プロ野球選手。そして四番バッター。新人ではあるがチー...

  • 人類最初の言葉 雉白書屋

     とある小学校の教室。田井中京子は黒板にチョークで文字を書き連ねる。そこに紙飛行機が衝突し、先端が折れて床に転がるも彼女は表情を崩さない。

  • 陽炎が舞う 雉白書屋

    「心を一つにして進む! 我々――」 駅前広場。そこで行われている選挙演説に足を止めたのは選挙カーの上で演説しているのがテレビでよく見た顔だからじゃない。その老齢の議員と向かい合うように踊るダンサーを...

  • 凄腕 雉白書屋

    「・・・・・・あれ? ここは・・・・・・どこですか?」「おいおい・・・・・・はぁ・・・・・・ふざけてるのか?それに、ここがどこだか大体見た感じでわかるだろう?」 ここはとある警察署の取調室。男の取...

  • 吾輩は猫なのである 雉白書屋

     吾輩は猫なのである。名前はまだない。と、言うのも彼女に決めてほしくて住み家と名前を捨てたのである。  彼女との出会いはある雨の日の事だ。『いい加減自分を知りなさい』『もう大人だろ!』などと説教垂...

  • 流刑の星を見よ 雉白書屋

    『あの輝く星を見てごらん。そう、あれだ。あれが流刑の星だ』 私が幼き頃、父が夜空に輝く星を指さし、そう言った。 進歩とは目覚ましいものだ。一隻の宇宙船。長年、時間をかけようやく完成したかと思えば二...

  • 天国の列 雉白書屋

     人、人、人、人、人。まるで地の果てまで・・・・・・いや、雲の大海の果てまで続いているのではないかと思わせる行列。陽光色の空の下。休憩中もといサボり中の天使はその列をぼんやり眺めていた。

  • 占いロボット 雉白書屋

     商業施設の中の端も端、その一角。紫色のベールをくぐり中へ入る。近所の占い師がよく当たると評判を聞き仕事終わり、家に帰るついでに寄ってみたが・・・・・・ははぁ成程。「ドウイッタ事、ヲ、占いマショウ...

  • 不浄のサイン 雉白書屋

     朝。目覚めた里香は洗面所に向かった。口をゆすぎ、顔を洗い終えるとため息を一つ。『昨晩はお楽しみだったようで』 鏡を見つめ、声に出さず口だけを動かした。最近、夫の様子がおかしいことには気づいていた...

  • インコのイーコ 雉白書屋

     みなさんこんにちは!ボクの名前はイーコ!ボクはとある家族に飼われているインコなんです!自分がインコって鳥なことをわかってるなんて、えへへ、賢いでしょう? そう、ボクは賢いのです!だからいろいろな...

  • 実況中継 雉白書屋

     ノックの音がした。激しくはない、静かな音。僕が耳を傾けるとまたノックの音がした。 先程と同じ大きさと長さ。いや、少し力強いかも。そのことから、立ち去る気はないように思えた。 僕は仕方なく起き上が...

  • 呼び込み 雉白書屋

    「やや! やややや! これは何とも素敵なお方!どうぞこちらに来て、よくお顔を見せてくださいな!」 夜道を歩いていた俺は突然そう声をかけられた。手を揉み、媚びるような男の声。俺は言われたとおりに近づ...

  • 選択肢 雉白書屋

    「・・・・・・今回はまことに申し訳ございませんでした!」「はぁ、もういいよ。下がって」「・・・・・・あの、それで契約の件は・・・・・・」「はぁ? あんなミスしたのにまだおたくの会社と仕事続けると思...

  • 蓋を開けてみれば 雉白書屋

     ある夜。仕事を終えた男は、かなり久しぶりにバーに来た。仕事漬けで部屋に籠りっきりの生活。頑張っていただけに金はある。 今の世の中、出前の種類も豊富だ。外食せずともそれなりに満足感を得られていたが...

  • 掃き溜めに鴉 雉白書屋

    「おー! こっちこっち! 久しぶりだな!」 賑わう居酒屋。僕は声のした方向を見る。見知った顔。一瞬ホッとしたけどすぐにまた緊張感が増した。 僕はその座敷に上がった。脱いだ靴を揃えるのを忘れなかった...

  • 体を返して 雉白書屋

     ・・・・・・ん、なんだ、あれは天井? 変、いや、あ、ああああああ! 何だ、この体は!? 視界が! 色が! なぜこうもあれこれ考えられる! 知識が! 溢れ出るようだ! ああああああ! 妙な気分だ!...

  • ドアの先 雉白書屋

     ・・・・・・なんで自分は生きているんだろうか。 ある日、男がそんな哲学的思考の道へ踏み込んだのも仕方がない。独裁者の演説のように唾を飛ばし、恫喝してくる上司を前にしては。 男はその説教に対し、耳...

  • 願いをお願い 雉白書屋

    「どうも、こんにちは。私は悪魔です。……悪魔ですよ。」「……ん、どうも」「あなたの願い事を何でも三つ叶えて差し上げましょう。まあ、何でもと言っても願いを千個に増やせ、などはご遠慮いただ――」

  • 発表の場 雉白書屋

    『僕たちB班の研究テーマは【思い込み】についてです!旧校舎には幽霊がいる。そう、この学校の低学年生たちの間で噂になっていることは、みんなも先生もご存じだと思います。今回はその調査……と言っても幽霊を見...

  • X 雉白書屋

    「……揃ったな」「ああ、これで全員だ。まあ、アイツを除いてだがな」「ああなっては仕方がなかった。殺すしかな……」「そうだな。他に方法はなかった。そして、それもこれも全てあの――」

  • スパイの記憶 雉白書屋

    「ん、あれ? ここは……え」「やあ、目が覚めたかね?」「あ、はい……あの、訊くのが何だか怖いんですが、その」「訊きたいのは『どうして僕はこの薄暗い地下室のような場所で椅子に縛られているのですか?』かな...

  • エイリアン・アブダクション 雉白書屋

    「あ、あれ……?」 ここ、どこ? この光……手術台?じゃあ、体が動かないのは、麻酔? なんで? 怪我? 事故?でも痛みもない、それに事故なんて……どうだったかな。 私は確か……そうだ、マロンを連れて夜の散...

  • 接待 雉白書屋

    「いやいや、実に楽しい時間を過ごさせていただきました。今日はどうもありがとう」「こちらこそです。どうぞお気をつけてお帰りください。みなさまにもどうぞよろしく」「ええ、良い報告を期待してください。で...

  • クリストファーの事件簿 雉白書屋

     朝、目覚めた俺はブラインドを上げ、日の光を体いっぱいに浴びる。 そして、さっそくコーヒーブレイク。豆を選別する手間を惜しまない。これでコーヒーの味に差が出る。そんな時間があるのも自由業の特権だろ...

  • 信仰者たちよ 雉白書屋

    「あっ」「おっと、はい、どうぞ」「あ、ありがとうございます。よく落としちゃうんですよね。ワイヤレスだと」「あー、わかります。僕なんて、なくしすぎて結局有線に戻しちゃいましたよ」「ははははっ」「あは...

  • 嫌悪感 雉白書屋

    「うおっ!」「ひぃ!」「ぐげぇ!」「あぶぶぶぶ!」「……」 巨大なスクリーンに映し出されたその動画を見た一同。声を上げ、顔を歪めた。

  • ある映画のエンドロール 雉白書屋

    【この映画を偉大なる監督、黒田正樹に捧ぐ】

  • 贈られた赤子 雉白書屋

     ある時、空から一隻の宇宙船が地球に着陸した。 報告を聞き、慌てて出迎えた国の代表に、その宇宙人はコブ星人と名乗った。 どうやら翻訳装置を使っているらしく流暢な話し方、それに加え二足歩行の人型でど...

  • たらい回し 雉白書屋

    「あー、もしもし? 実は――」 心を落ち着かせたつもりだったが駄目だ。またしても心臓の動悸が……。 だがそれも仕方ない。さっき目にしたものを話そうとすれば当然、その光景が頭に浮かんでしまう。

  • 問題 雉白書屋

    「では次の問題です! プロ野球十二球団のうち――」「はい! 答えは――」「正解です! トヨタタカヒロさん、またポイントを稼ぎました!」「いよぉし!」

  • 男と女 雉白書屋

    「お、おい……! 空を見ろ! UFOだ! 宇宙人が攻めて来たぞ!……ふくっははははっ!」「ちょっと、やめてよケンちゃん! みんなこっちを見てるじゃない!」「見られて何が困るってんだよぉ。こうなったら、ここ...

  • 写経 雉白書屋

    「……なんだか心が洗われていくのを感じます」「ほう」「精神を集中させるからですかね。最初は大雑把で、ただ自分の感情をぶつけるだけだったんですけど途中から……そう、まるで導かれるように、この手が動くんで...

  • 予知能力者 雉白書屋

    「やあやあ、遅れて悪いね。ちょっと美女と遊んでやってたもんでね」 そう言った男はドカッとソファーに腰を下ろした。悪いね、と言う割には悪びれた様子はない。それもそのはず、この男はわざと遅れてやってき...

  • エア結婚 雉白書屋

     独りの男がいた。そう、独り。彼は独身だった。 が、その手の薬指には、この薄暗いバーの細やかな照明でキラリと光る指輪が。 独身なのになぜ。 その理由。彼は女性にモテない。モテなさすぎた。ゆえに結婚...

  • 空からのメッセージ 雉白書屋

     ある日、宇宙局は特殊な電波をキャッチした。これは、まさか地球外の知的生命体からのメッセージでは?そう考えた彼ら。テレビの要領ですぐに映像に変換することに成功。集まった政府の高官や軍事関係者と共に...

  • 頭の中の小屋 雉白書屋

    「ねえ、パパ……」「ん? 何?」 その少女は繋いだ手の先にある父親を見上げ、目が合うと俯いた。 まだ幼いとはいえ自分がこれから言おうとしていることがどういう事か理解していた。ぼんやりとだがその顛末も...

  • 地球儀 雉白書屋

    「はーい!」 インターホンが鳴ると同時に少年は自分の部屋から飛び出し、玄関に向かった。読み通り、宅配便だ。荷物を受け取り、また部屋に戻る。今日は少年の誕生日。単身赴任中の父親からプレゼントが届いた...

  • スーツの中身 雉白書屋

     毎朝の事だが、スーツを着るとバチッと身が引き締まる思い。その後、訪れる眠気。これもいつもの事。 出勤。運動不足が心配なので階段では大きく足を上げて昇るようにしておいた。尤も大した効果はないだろうが。

  • 呼び水 雉白書屋

     その青年はガタガタ震えながら下を見下ろした。 次に、後ろを振り返る。友人たちのニヤニヤとした表情。その中に一つ、可憐な微笑み。彼女は青年の意中の相手。それを前にしてまさか怖気づいたなんて言えない...

  • 箱の中身は 雉白書屋

     怪しい露天商から妙な箱を買った。いや、買わされた。手に取ったら買えだなんて強引だ。 魔法の箱と言っていたけどあの強引な買わせかたからして、いや、そうでなくても当然嘘だろう。 でも商品説明はちゃん...

  • 仙人の技 雉白書屋

     山奥、道なき道を歩く男。伸びた枝を煩わしそうによけて明るい方へ。木々を抜け出た先は崖、そして荘厳な滝。それを見下ろす。かなりの高さだ。下が水と言えど落ちたら無事かはわからない。「これこれ、こんな...

  • 居心地 雉白書屋

    「いい夜だなぁ」 カウンター席が五つの小さな居酒屋。端っこの席に座ったその男はそう言った。 独り言にしては大きかったのとたまたま会話の合間にポンと出た言葉だったので他の席に座る四人はその男に目を向...

  • ゆめうつつ 雉白書屋

    「はぁぁぁ」「うおっ、デカい溜息」「そりゃそうだろ。どれだけ働いても一向に暮らしが良くならないんだからさ。はぁぁぁぁ……」「俺はこうして酒が飲めればいいけどね。それも部屋飲みじゃなくてこんないい感じ...

  • 解禁 雉白書屋

    「なんだまたか……おい、お前はこれ行く気なのか?」「え? ああ、ワクチンの注射ですね。それなら今日の昼にもう行ってきましたよ」「なに!? 律儀な奴だなぁ」

  • 相席 雉白書屋

     まさかこんな時代が来るとは思わなかった。お見合い文化が廃れ、結婚のチャンスを失いつつある昨今の男と女。相席居酒屋など出会いの場として様々な取り組みがあるのは知ってはいるがふふふふふ。ここは最高だ...

  • 火祭り 雉白書屋

    「さぁ! 火を放てい!」 豪快な掛け声と共に火が放たれた。バチバチと音を立て、勢いよく燃え上がる建造物。静かな巨人を思わせていたそれの変貌ぶりに、ある子供は恐れまた、ある子供は目を輝かせながら見つ...

  • 本編 雉白書屋

     とある町に、とある青年がいた。俯きながら歩くその姿は不幸そのものを体現しているよう。それもそのはず。その青年の容姿はあまり良くなかった。 いいや『良くなかった』では生ぬるい。悪い。悪いのだ。そし...

  • それぞれの地獄 雉白書屋

    「ほらそこ! 札落とさない!」「へぇ?」「……おい、ほらこれ。何してる、早く受け取れ! また怒られるぞ!」「あ、あ、どうも、え?」 ……ここ、どこだ? さっきの怒鳴り声で目が覚めた感じだけどここはまる...

  • あだ名 雉白書屋

     夜。駅から町に出る人の姿も疎らになってきた、この時間帯。僕は一人、レジでボーッと立つ。店長はどっか行った。どうせ飲み屋だろう。ワンオペ。しんどいけど、まあ、このコンビニは客入りが少ないから平気と...

  • 彼の失敗 雉白書屋

     あー、駄目だ。失敗だ。ちょっと目を離した隙にこの有様だ。これじゃ発表なんて無理だな。他の奴らに馬鹿にされてしまう……。 しかし、何がいけなかったんだろう?んー、あー、色々育てすぎたんだなきっと。

  • 太っちょな死神さん 雉白書屋

    「お母さん、ただい……え?」「あ、おかえりー!」「お母さん? あの」「ん、何?」「ういっす、おかえりー」 学校から家に帰ってきたぼくはすごく驚いた。誰だろうこの人。カーペットの上に寝っ転がって、自分...

  • 禁断の果実 雉白書屋

    「うーむ、これか……いや、確かに……」「……どうですか、博士?」 調査を依頼された博士と助手が見上げるのは一本の木。その枝についている果実。 まるで鉄のリンゴのような見た目のその果実は初めて発見されたと...

  • 魔法使いの恋 雉白書屋

     むかし、むかし、とある国に魔法使いがいました。その魔法使いは大変な魔力を持ち、大抵の望みなら叶えることができましたがただ一つ、上手くいかないことがありました。 それは恋でした。

  • 無情な鳥 雉白書屋

     戦場を高速飛行する四機の戦闘機。空を裂き、大地を揺らすその様に敵は恐怖し、それらを『悪魔の翼』と名付けた。 そのうちの一機、特に恐れられていたものは『蒼炎』と呼ばれていた。由来はジェットエンジン...

  • 反逆 雉白書屋

    「……もうこの土地は駄目です……日照りも酷いし曇ったと思えば湿気がひどい」「新しく生まれた子もすぐ死んだ……。まったく、こんな年寄りが生き残ってどうする! くそぉ」

  • 預言者 雉白書屋

     ある日、地球に一隻の宇宙船が降り立った。いや、不時着したと言った方が正しいだろう。肉眼で見える距離になってから顕著に、その宇宙船から煙が上がっているのが確認できたのだ。 街の中に不時着したため、...

  • 苦悩のバス 雉白書屋

     その青年はゆらりゆらゆらバスに揺られていた。乗客は彼含めて四人。物静かで平和な空間。 お爺さんに、会社員風の男性。それと……。 青年はその女性と目が合うと、慌てて窓の外に目を向けた。 ――綺麗な人だ...

  • 会話 雉白書屋

    「……来たか。さすがは名探偵と言ったところか」「彼をどこへやった?」「ふ、はははっ! はーっはっはっは! はぁ……俺の復讐はこれで終わりだ」「まさか……もう」「さあ見てください、この絶景を!」

  • 指示書 雉白書屋

    「どうもこんにちは、貴方が社長ですね。税務署の者です」「え!」「どうされましたか?」「い、いやあ、まあ応接室へどうぞ」

  • 雉白書屋

     大学時代からの友人で発明家の西田に深夜、家に呼ばれた。奴は発明品の特許で財を築き、町はずれに作業場兼自宅を建てたのだがそれゆえに訪ねるにはタクシーを使う羽目になるから、俺の機嫌はすこぶる悪い。 ...

  • 闇の秘密組織 雉白書屋

    「おっ」 携帯電話の画面を三度に渡り確認した俺は家を飛び出した。組織からの指令だ。そう、俺が属する闇の秘密組織からのな……。 組織はその全貌が見えぬほど強大であり世界中に同志がいて各方面に多大な影響...

  • シチュエーション 雉白書屋

    「ただいまー」「あーんあんあんあなたお帰りなさいあーん」「これはどういうことだ? 不倫か? リビングのソファーで」「あーんあーん」

  • この人痴漢です! 雉白書屋

    「この人痴漢です!」 高々と掴み上げられたその手に周囲の人間の視線が集中した。電車内の蛍光灯に照らされたその手は白色めいていてスポットライトを浴びているかのよう。 視線は当然、その手の主である男の...

  • 夫たち 雉白書屋

     ガンガンと引き戸を叩く音。パタパタとスリッパを鳴らし、玄関に向かってみれば、曇りガラスに映る影。その家に住む女は息を整えると戸を開けた。「あ、あなた……」「おまえ……久しぶりだな。もう何年になるか……...

  • ゴッドハンド 雉白書屋

    「俺はもう駄目みたいだ……」「そんなこと言うなよ! 気をしっかり持て!」「駄目さ……だってほら、見てくれよ。膿んでやがるぜ」

  • 虚ろげなバー 雉白書屋

    「ふぅ……」「おやおや、ため息なんて似合いませんよ、お嬢さん」「ふ、ふふははっ! いや、似合うだろうに。つい笑っちゃったよ、はははっ。んでアンタ、いつこっちに来て?」「つい先程ね。ふふふ、隣失礼しま...

  • 天に吠える 雉白書屋

     俺の親父は人殺しで母親は尻軽女。親父がいなくなったらすぐに他の男に腰振られてら。 そんな親から生まれた俺も檻の中で眠るのさ。

  • 名選手 雉白書屋

    「こいつはメッシ。で、その隣はペレ。んでロナウジーニョにそれから……まあ、このメモの通りにお願いしますよ先生。へへへっ考えるの結構、楽しかったんですよ」「はぁぁーい! では監督さんはこちらにどうぞ。...

  • 人魚がいた湖 雉白書屋

    「……へ、に、人魚?」 ツーリングの途中、休憩がてら夜の湖に来た青年はその女を見て思わずそう呟いた。大きな石の上に腰かけ、尾びれを伸ばしていた女は振り返ると同時にサッと体を丸めた。 無音の時間。 外...

  • マサキヨくんが浮いた! 雉白書屋

     とある中学校の教室。教師がいる上に授業中だというのにガヤガヤと騒がしい。しかしそれも仕方がない。むしろ当然。と、言うのも今、修学旅行の班決めを行っているのだ。おまけに教師は机に片肘ついて眠ってい...

  • 神にご挨拶 雉白書屋

    「あの」「ん、え?」「どうも初めまして」「ああ、うん……うん?」「はい?」「いや、え?」「ん、はい?」「いや、なんで人間が、この神の宮殿にいるんだ?」

  • 大海を泳ぐ 雉白書屋

     ひどく暗い海だった。出来るのはただただ前へ進むことのみ。他に選択肢はない。ましてや後退など。 振り返れば飲み込まれるんじゃないかという闇。 いいや、闇は確かに飲み込んだ。さっきまでそこにいたはず...

  • 新たな時代 雉白書屋

    「――と、いう訳で朝礼を終えるわけだが……仕事にとりかかってもらう前に最後に一つ、素晴らしい知らせがある!明里くん! さあ前へ来てくれ!」「はいっ!」 なんだなんだとオフィス内がざわめく。しかし、あの...

  • 翻訳機 雉白書屋

    「お母さん、お母さん……」「……おはよう」「ふふふっ、起こしてゴメンね。今日はプリン買って来たの。食べる?」「食べる」

  • ぼくのサイボーグ 雉白書屋

     ぼくは映画を見るのが好きだ。 映画を見ている間は辛い現実を忘れられるからだ。なんて聞いたら、きっと小学生が何を言ってるのなんて思うだろう。 でも辛いのは大人も子供も同じでしょ。 意地悪してくるク...

  • 一堂 雉白書屋

    「嘆かわしい嘆かわしい。苦心の末に国を統一したというのに民を制御できていないとは」「まったくですな始皇帝殿。こちらも自由をもたらしたつもりが格差が開くばかり……。なあ、竜馬殿」

  • クレーマー、クレーマー 雉白書屋

     深夜の牛丼屋。店員である伊佐見は半ば機械的な動作と声で客を見送ると、腰に手を当てた。 今、伸ばせば良い音が鳴る気がする。それが何だと言われればそれまでだが、一息つくにはちょうどいい頃合い。 店内...

  • 包み隠して剥き出す 雉白書屋

    「……あ! ちょっと!」「ふふふっ」「やめてよね! こんな、人が多いところで……」「ははっ! いいじゃないか別に」

  • 脆く儚い絞首台 雉白書屋

     襖を開けた京香は、ふと障子の間からのぞく窓の外の景色を見つめた。 雪だ。便座の冷たさから今日は寒いと思っていたがそうか、雪……。と、京香は息を吐いた。目を向けたがそれに白さはなかった。 和室の中を...

  • 同窓会 雉白書屋

    「――と、いうわけで白栄高校同窓会同級生全員出席を祝いぃぃぃ……かんぱああああい!」「かんぱーい!」「フゥゥゥゥゥゥ!」「いよっー!」「ははははは!」「いいぞ委員長!」

  • 狼が来たぞ 雉白書屋

    「狼が来たぞ! 狼だ! 狼が出たんだ!みんな、狼だー! 本当に狼が来たぞ!」 その少年はひとしきり叫んだあと、膝を突いた。 反応が無い。風の音だけがしている。 自分の言葉など、もう何の価値もない。...

  • ここがオームドランド 雉白書屋

     僕はこの日、自分の部屋に鍵を取り付けた。と言っても頭の部分をハンマーで曲げた釘を二つ打ちつけそれを引っ掛け合わせただけのものだ。 内側からしか掛けることができないから外出している間、部屋の秘密を...

  • 夢見がちな脳 雉白書屋

     その病院にはある秘密がある。夜中、決められた時刻。一秒も違えずにドアを開けると繋がることができる不思議な部屋。 そこは番号なき解剖室。解剖台の上には新鮮な遺体。周囲には揃えられた器具。必要なもの...

  • ミラーリング効果 雉白書屋

     ミラーリング効果。相手の動作を真似することで、親近感を抱かせる心理テクニックだ。……というのを最近知ったので、早速この喫茶店で実践。 相手は通路を挟んで斜め前の席に座る美女だ。超好みのタイプ。前も...

  • 馴染みの店 雉白書屋

    「あ、ちょ! 女将さん!」「あ、あら。常連さんの……」「どうも……」「どうも……」「店、閉店するんですってね……」「ええ、まあ。理由、あなたも知ってるわよね……?」

  • 二人乗り 雉白書屋

    「ねえ、もう止めてよ!」「ははははははは!」 熱い背中、バクバクする私の心臓。目まぐるしく変わる景色。二人乗り。どこか憧れはあったけどまさかコイツとすることになるなんて……。 初めて見た瞬間から感じ...

  • いつの時代も 雉白書屋

    「ねぇ、おじいさん。これはどうやってあそぶのー?」「これはだなぁ。絵が描いてあるだろ? 二人、いっせーので出して強そうな方が勝ちだ」「ねー、おじーさん。これはー?」「これはだなぁ……ほら、こっちを持...

  • 魂の服 雉白書屋

     軍服。それは国に認められた職人が手掛ける至高の一品。帝国軍人の魂の服。その袖を通すことは栄誉であり、始まりでもある。これまでの自分を脱ぎ捨て覆い、人として男として一人前になるということ。 しかし...

  • 武勇伝 雉白書屋

     俺の上司には困ったものだ。普段はまともなのだが酒が入ると「んー、やっぱり六人だったかなぁ。うん、六人の不良相手に素手でね。まあ、楽勝だったよ」 このように嘘丸出しの武勇伝をのたまうのだ。それも居...

  • 田中 雉白書屋

     久々に田中のやつから連絡が来た。先日、海外出張から帰ってきた。飲みに行こう、と。 多分、自慢話を聞かせられることになる。だから会うのは気が進まなかったが、お土産があると言われたらしょうがない。 ...

  • 優先度 雉白書屋

     人の頭の中には天使と悪魔がいるって言うよね。良い心と悪い心のせめぎ合い。選択を迫られたとき現れるって話だ。 ははは……僕の場合はそれが、最近特に顕著だ。本当に存在しているんじゃないかって思うくらい...

  • 箱の中の猫は 雉白書屋

    「ねえ、ままー。ねこちゃん飼っていいでしょ?」 駄目よ、と母に言われた私は不貞腐れた。 学校帰りに拾ってきた子猫。それを腕に抱える私に母は汚いものを見るような目を向けたのだ。 昔の話。嫌なこととい...

  • 世界の修復 雉白書屋

     この世界は何かがおかしい。俺がそう思うようになったのはある日、空に亀裂を見つけてからだ。 最初はそこまで気にしなかった。何せそれどころじゃなかったからな。食べ物を盗んでいるところを見つかり、捕ま...

  • 俺が俺が俺俺だよ俺で俺俺俺 雉白書屋

    「よう、入るぜ」 インターホンが鳴り、ドアを開けた俺に俺がそう言った。 そう、そこに俺がいたのだ。 ドッペルゲンガー、変身宇宙人、別次元の俺、あるいはロボット。あらゆる可能性が瞬時に頭の中に浮かん...

  • ぼくのキノコ 雉白書屋

     7月23日。 朝、左腕の手首辺りに小さなキノコが生えているのを発見した。 今が夏休みで良かった。学校に行ったらきっとみんなからフケツだの何だの馬鹿にされていたと思う。 原因は何だろう? 昨日の夜ご飯...

  • 我ら不滅なり 雉白書屋

     カチカチカチとパソコンを操作する男。「お、これはアイツか……」 何かを見つけては、しきりに呟き、にやける。「おお、これもか……がんばっているな。こっちは新人かな? ほほう……」

  • 事件の対処 雉白書屋

    「キャアアアアアアアア!」  その悲鳴を聞きつけ、部屋の中に続々と人が踏み込み横たわったまま動かないその女性を中央に、自然と半円状に並んだ。 見下ろす、女性のその腹部から血が衣服に染み出ているのが...

  • 探検隊の成果 雉白書屋

    『太古に生息していたと言われる幻の生物。我々探検隊は目撃証言を頼りに海を渡り、聳え立つ山々を越えその密林へ足を踏み入れたのである!行く手に立ちはだかるは、大自然からの第一の刺客!恐ろしい吸血生物、...

  • トラトラ…… 雉白書屋

     精神科医の内宮は二つ後悔した。 まず一つ目は、自宅兼診療所にしたことを。自宅と仕事場が同じ建物内なら楽でいいなんて子供の頃の考えを大人になっても持ち続け、実現させてしまった。

  • 予知夢 雉白書屋

     機内の壁面に生じた亀裂を客室乗務員の女が必死になって両手で押さえている。彼女の名前は何だったか。みんな、似たような笑顔だから区別がつかない。通路を挟んで斜め前の席にいる太った男が、目の前にぶら下...

  • 疎外感 雉白書屋

     雛野君、雛野君、雛野君。「雛野君?」「あ、は、はい!」 雛野はぼんやりと眺めていた机の上の書類から顔を上げた。瞬間、背筋が凍った。オフィス内にいる全員が雛野を見ている。それも真顔。と、考えても見...

  • エスカレーターはどこ 雉白書屋

     ドアを開けた男はそのまま直進し、正面の受付で足を止めた。 そこにいる女は男が目の前に来ても見向きもせずただ黙々と何かの作業をしている。 男は大きく吸い込んだ息に似つかわしくない。囁くような声で女...

  • ノーベル賞ください 雉白書屋

    「あの、ノーベル賞ください」 店内に戦慄が走る。店の自動ドアを通るなり真っすぐにカウンターへ向かって歩いた男は店員の女のお決まりの挨拶を遮り、そこそこ大きな声でそう言ったのだ。「は、はい?」 戸惑...

  • 賽銭王 雉白書屋

     ――と、言う訳で神様どうかお願いしますよっと。「え、あれ?」「ん、え?」「えっ」「えっ」 どういう状況だこれ……。落ち着け、俺。えーと、初詣。長い行列の中、ゾンビみたいにノロノロと進んでようやく賽銭...

  • 没頭 雉白書屋

     ここは戦場。飛び交う銃弾に仲間は次々と倒れていった。障壁は我々を守ってくれるが、それは敵からしても同じこと。利用され、領域は徐々に侵食されていった。 司令官からの指示はただ一言。食い止めろ、それ...

  • ぼくは殿さま 雉白書屋

    「おいおい上田、また遅刻か。早く席に着きなさい」「あ、はい、すみません、先生……」 今日も遅刻。昨日も遅刻。その前も多分遅刻。遅刻続きで先生も呆れるだけでもう、ぼくの事を怒らなくなった。……のはいいん...

  • 超いじわるクイズ 雉白書屋

     勢いよくプールに飛び込んだタロウくん。ガチガチ震え出したよ。どうしてかなぁ? 正解は……。

  • 地球は青かったが 雉白書屋

     ――地球は青かった。 人類初、宇宙へ行き、その目で地球を見た宇宙飛行士、ガガーリンが残した言葉だ。 実にいい言葉だ。完璧すぎる。 そう、だから私は今、困っているのだ……。

  • 見送り 雉白書屋

    「いやー、しかし寂しくなるなぁ。……なぁ! なっ!」「ん、ああ」「そうだね」「……ふぅ、でも、絶対会えなくなるわけじゃないからさ」

  • 現実は 雉白書屋

    「……なぜですか。なぜ彼女を採用しなかったんですか!」「何だね君、藪から棒に……」

  • いつものよろしく 雉白書屋

     コーヒーと昭和の雰囲気香る小さな喫茶店。穏やかな音楽、それに添うような調理の音。お昼のピーク時を少し越えた辺り。来訪を告げるドアベルが爽やかな音色を響かせる。「おお、懐かしい音だぁ。ふふっ、変わ...

  • ナルコレプシー 雉白書屋

     ……眠っちゃいけないときほど、寝たくなるのはなんでだろう。現実と夢の狭間、そのシーソー。ああ、すごく気持ちいい……。 そもそも、眠たくなるような講義をするくせに寝ると注意し、最悪の場合出席をくれない...

  • ベラドンナの誘い 雉白書屋

     夜。とあるクラブで男が一人、喧騒に背を向け物憂げな表情でグラスと戯れていた。すると、そこにヒールを鳴らし、近づく影。「はぁい、こんばんは。隣いいかしら?」「……ああ、いいとも」「ふふっどうも、それ...

  • 水平線 雉白書屋

    【作家として数々の物語を世に出してきたがその最期は何とも平坦で彩の無い事か。 目に映るのは大海原。乗っていた船が沈没し、救命ボートで脱出したは良いものの食料はなく、おまけにオールを落としてしまった...

  • 注釈 雉白書屋

     ※このドラマはフィクションです。 登場人物・団体・名称等は全て架空であり、実在のものとは関係がありません。実際に殺人は行われていませんし、血液に見えるのは血糊です。 また、犯人役が暗い部屋でパソコ...

  • 博士のロボット 雉白書屋

     ある日の街中。ゴロゴロゴロとスーツケースか何かを運ぶような音がし、人々は目を向けた。 そこにあったのはこの街で噂の老人。通称『博士』白衣に白髪、眼鏡とオーソドックスな出で立ち。そしてそれが『博士...

  • そして火星へ 雉白書屋

    「……あら? あなた、みっちゃんじゃない? ねえ、みきおくんよね?」「……え、あ、ああ! 駄菓子屋のおばちゃんですね!」 未だ発車しない列車の窓の外をぼんやり眺めていた男は通路で立ち止まった老女に声を...

  • ガードマンロボット 雉白書屋

     僕の仕事はその場でただ立ち、やってくる人に笑顔を送ること。ただそれだけ。ただ無心で。一定のトーンで。変なアレンジは不要だ。尤もしたところで、誰も僕に目は向けない。 ……いや、時々馬鹿にするような目...

  • 宇宙人の幽霊 雉白書屋

     ある日、街中に幽霊が出現した。時代が時代なら立体映像だと見向きもされなかっただろうがあいにくまだそんな技術はない。 幽霊がいるということは魂の証明。天国、地獄の存在の確立。いや、それは早計だろう...

  • 罅割れた卵 雉白書屋

     オームドランドは泥と油臭い何とも華やかさに欠ける地だ。ここの子供はベルトもせず垂れ下がったズボンを右手で上げるような町の大人連中にはなりたくないと思って育つが成長し、天井のシミがよく見えるように...

  • 我、ロボットに非ず 雉白書屋

     我、ロボットに非ず。 されど体は動かず。 生みの親の身の危機。 悪漢に殺されようとすれどもロボット三原則が確かなる枷となり人に危害は与へられず。 博士の断末魔を耳にせむとも感情動かず、目より零る...

  • 錆びついた自転車 雉白書屋

    「……おやっさん。お務め、ご苦労様でした!」「あ、おう。お前も出迎えご苦労」「ありがとうございやす!」「つい、言葉に詰まっちまったよ」「へい! 自分も感無量です!」「……いや、そうじゃない」

  • 酔いどれどろどろみどろ 雉白書屋

    「いやーえらい事になったっていうのに落ち着いていられるのはお前がいるからだろうな」「へへ、俺も同じことを考えていたよ。ま、経験の積み重ねもあるがな。前と同じく荒れた天気」「んで運良く山小屋を発見」...

  • 路地、それは産道のようで 雉白書屋

     電気椅子のある部屋まで続く廊下ってのは、こんな感じだろうな。 ブルースは愛車のハンドルをぎゅっと握り締めながらそう思った。 点々とある外灯。その光が頼りないのは仕方ない。この町は金がない。弱々し...

  • 酒の席の話 雉白書屋

    「あ! あんた……」「おお、あなたは昨日の」 肩で息をしながら居酒屋に入って来たその男は一瞬、安堵の笑みを浮かべたが、すぐにまた顔を引き締めた。まるで親とはぐれた子供がその親を見つけた時のような喜び...

  • 酒の力 雉白書屋

     夜中、小さな一軒家。そこに住む男は定年退職した途端、妻に出ていかれ意気消沈……していたのは最初の内だけで、気兼ねすることなく酒が飲めていいやと近所の飲み屋で知り合った男を家に呼び、今夜も酒を飲んで...

  • 腐卵の森 雉白書屋

    【○月×日。私はその森の足を踏み入れた。禁足地。それは国の各地に伝承と共に今も存在しているがそのどれも神や聖地、超常的な力があるとは言い難い。 しかし、この森は違う。その異様さは、まだそう探索が進ん...

  • 夢のショールーム 雉白書屋

    「よぉ山下」「げ、川上」 川上だ。嫌なやつに出会ったな。ん? 俺は今、なんでそう思ったんだ?別にこいつはただの高校のクラスメイトだ。……ああ、そうだ。確か喧嘩したんだった。いつだったかな? 昨日かな...

  • 歪な夢を 雉白書屋

    「風が気持ちいいわね、ディーン」「そうだろう、アリーシャ。僕の言ったとおりオープンカーにして正解だったね」「ふふっ」「なんだい?」「あなたったらそればっかり」「でもホントだろう?」「ええ、勿論。あ...

  • レストランにて 雉白書屋

    「本日は当レストラン『デュカ・エステート』にお越しくださいましてありがとうございます。私は本日お客様のテーブルを担当させて頂きます、ファビアンと申します。どうぞ、よろしくお願いします。ではお席にご...

  • 24時間テレビジャック! 雉白書屋

    「いやぁ、ついに今年も始まりました! 24時間テレビ!さあ今、画面のワイプには24時間マラソンに挑戦中の西田さんが映っていますね!頑張っていただきたいものです!寄付の方は、はい、テロップにある口座の方...

  • 塔が建つ 雉白書屋

     塔が建つ、塔が建つ。 国に偉大な塔が建つ。 世界最大の塔だ。

  • 収納マニュアル 雉白書屋

     さて、冷凍庫の収納法だが効率よく行うためには、まず物を保存パックに入れる必要がある。そしてこれは迅速に行わなければならない。数が多いだけに、ダラダラしていては傷み、不純物が出る可能性がある。 保...

  • エアコン法 雉白書屋

     年々増す暑さに蝉も元気がないどころか、数が減ったように思える。 反対に人口は増し、プールも海も人だらけ。避暑地も暑苦しいほどだ。まあ、金に余裕がない俺には行く機会も気概もなく家でエアコンをつけて...

  • いーけないんだーいけないんだー 雉白書屋

     廊下に響く靴音が無機質かつ、冷えた空気を強調しているようだった。 教師の女が教室のドアを開けると、生徒たちの視線が一斉に注がれる。それは熱量を伴ってはいたが、見る見るうちに冷めていくことから自分...

  • 耐久レース 雉白書屋

    『それではこれより、耐久レースを開始する。各自準備は良いな? では……スタート!』 ついに始まった耐久レース。全員、横並びで懸命に足を動かす。 灰色の壁。黒い床。寒々しく感じる部屋のその中央に並べら...

  • 怪しい集団 雉白書屋

     深夜、自宅からそう離れていないところにある大きな公園にジョギングしに来ていた。 この公園と併設した施設で自転車の貸し出しを行っており、サイクリングも楽しめる。 まあそれは昼間の話。景色は変わり映...

  • 暴動が起きた 雉白書屋

     暴動が起きた。暴動が起きた。 教会の屋根に佇む風見鶏のその向こう。宵闇の空を色付けるは燃え盛る炎。 教会上部、割れたステンドグラスから煤の匂いと獣の叫び声が入ってくる。 息を殺し震えるは内から扉...

  • ある新組織 雉白書屋

     とある町の古びた建物。そこの一室に集まった複数名の男女。彼らは今、練り上げた計画の最終確認をしていた。「ねぇ、その……本当にやるんですか? ……ボス」「あたりめえだろ! 何のために足りねぇ知恵出し合...

  • 名試合 雉白書屋

     とある居酒屋。席に座る二人の男女。彼らは恋人同士。しかし、楽げな様子というよりも……「はぁ……」「……なぁ」「なに?」「今ので四度目だぞ」「なにが」「溜息だよ溜息。この店に入る前もだ。なんなん? 俺と...

  • クソみてぇな話 雉白書屋

     しぶとい残暑。しかし秋の入り口のでもある今の時期。鉄道会社は冷房を付けるのには寒いと判断したのだろう。 だが、人身事故による遅れにより車内の混雑率は体感200%。 ムンムンムワムワ息苦しい。 そして...

  • トンネルのその向こう 雉白書屋

     夏休み。祖父母が住む田舎に遊びに来た、とある少年。一人で遊んでいたところ小さなトンネルを見つけた。そこをくぐると……「……あれ、ここは」 少年の目の前に現れたのは、大きな門。そして後ろを振り返るとト...

  • 競い合った果ては 雉白書屋

    「さぁ! 今年のミスコンもいよいよ大詰め! 順位発表の時がやってまいりました!いやぁー参加してくださった美女たち! みんなありがとう!ではまず、審査員特別賞から発表です……さぁ、まずスポットライトに...

  • 性交権取得試験 雉白書屋

    「あ」「お」「おはよう……」「おお、おはよ……」「昨日は眠れた?」「あんまりだな。そっちは?」「こっちも」「だよなーだってなぁ」「緊張して」「興奮して」

  • 湖中の彼女 雉白書屋

     オームドランドに夏が来た。クソッタレなこの町だが良いこともある。道端に落ちている人糞だか犬の糞が早く乾いて臭いが気にならなくなることと夏休みがあること。 そして湖。やや緑がかった深青色の湖はクソ...

  • 犯人の特徴 雉白書屋

    「マジ……か……うぇ」 真っ暗な部屋。テレビを前に男は咳き込んだ。その理由は映し出されたニュース映像。 走って帰って来た男はそのまま倒れるようにベッドの上で眠りにつきしばらく経った後、時間を確認しよう...

  • 新発見 雉白書屋

     仕事場から家に帰ってパッパッパッとテレビのチャンネルを変え面白いものはやってないかと眺めていると、どの局も同じような画面。 重大ニュースらしい。テレビに近づき画面上部のテロップを見ると【新種の生...

  • あなたのお家の冷蔵庫 雉白書屋

    「大活用! あなたのお家の冷蔵庫!はいっ! というわけで人気タレント兼料理研究家の私、清水明子が今回やって来たのはこのお宅! ちょうどいい感じの一軒家ですねぇ! 

  • 俺たちのサバンナ 雉白書屋

     人生で後悔したことは何度もある。打ちのめされたことも数えきれないほどに。でも、俺はその度に立ち上がり、乗り越えてきた。 エリート。俺を表す言葉として他に相応しいかつ、わかりやすいものはないだろう...

  • 俺の一日 雉白書屋

     カーテンから差し込んだ太陽の光で俺は目を覚ました。 頭が痛い。二日酔いのようだ。時刻はちょうど昼頃。腹が減った。飯だ飯。 だが、体が何だか気持ち悪い。結構、汗をかいたようだ。それにかゆい。思えば...

  • 夜の怪物たち 雉白書屋

     ある夏の夜のことでした。夏休みももうすぐ終わり、何かやり残したことはないかなーと思った私が家の中を適当に漁っていると、お祖母ちゃんの家でした花火の残りを見つけました。 これはいいものを見つけたぞ...

  • 耐用年数 雉白書屋

    「……なぁ、みんな。俺はもう駄目みたいだ。いや、今の言い方だとみんなは『何言ってるんだよ、大丈夫だよ! 現に今も生きているじゃないか!』と言ってくれるだろう。でもさ、俺はもうとっくに駄目なのさ」「……...

  • 困った客 雉白書屋

    「んーどうすっかなぁ……やっぱ悩むなぁ……ん? ああ、大丈夫大丈夫。もう決めちゃうから。あー、でもなぁ……。あー、うっし、ハンバーグセットで。んでライスかパンか選ぶんだよね? あー、パンで、あっやっぱラ...

  • 行列 雉白書屋

     大名行列ってあるじゃろ?それはそれは立派なモノでなぁ。その行列が道を通っている間は地面に膝をつき、顔を伏せていなきゃならんのだがつい見てみたくてなぁ。だってお侍さんやら何やらカッコいいじゃないか...

  • 誰がロボットを壊したか 雉白書屋

     とうとう、わが営業所にもロボットがやって来たぞ! ロボットとの初顔合わせの日。上松部長はそう言って肥満気味のその腹をでんと突き出し横に並ぶロボットの肩を抱いた。 室内で拍手が巻き起こるも手を叩く...

  • 社会の歪み 雉白書屋

     大学の食堂で一人、昼食をとろうとしていた男。そこに慌てた様子で一人の友人がやってきた。「おいおい、どうしたんだ?」「はぁ、はぁ、聞いてくれよ、やば、やばいんだよ」 男は持っていた箸をトレーの上に...

  • 殺し屋の謎 雉白書屋

     若くして成功を収めたその男は郊外に大きな家を建て健康のために毎朝、外を走っていた。 豊富な緑。匂い、鳥の囀り、朝日、全てが爽快だ。そしてそれも日常の一部に過ぎない。順風満帆。いつもと変わらない。...

  • 愛煙家たちよ 雉白書屋

     タバコ一箱の価格がついに十万円になった。これは言わば懲役三百年と同じ意味である。外に出るな。牢屋の中で死ね。つまりタバコを買うな、吸うなということ。

  • 占い師たちと死の迷宮 雉白書屋

    「あ、あれ……ここは?」 目覚めた場所は私が知らない床、いや、部屋でした。ややくすんだ白色。そして……「目覚めたかい?」「ひゃあ!」「おいおい、ふふふっ、山姥とでも思ったのかい?」「い、いえ、有名人だ...

  • ご飯粒ついてるよ 雉白書屋

    「あ、ご飯粒ついてるよ」 俺はうんざりした。そう指摘され『ああ、俺としたことがこんなミスを』と自分を恥じたわけではないし指摘するやつ、その全員にニヤついた顔されるのにも、もう慣れた。ただわかっても...

  • 踊らにゃそんそん 雉白書屋

     その家を見つけるのはそう難しいことではなかった。わはははは! と笑い声を辿ればよかったのだから。そう、あの馬鹿笑いを。 夜中、宴会でもしているのか馬鹿騒ぎ。流石に夜の十二時を過ぎては文句の一つも...

  • 二人のみ 雉白書屋

     はい、かんぱーい! っと、いやーまさか君と二人きりで飲めるなんてねふふふふ。お酒も美味しい美味しい、ん? ふふふ、いい飲みっぷり?いやーじゃあもっと飲んじゃおうかな! って僕を酔わせてどうするつ...

  • お盆はどこも大渋滞 雉白書屋

     お盆と聞いて、何を想像されますか? お墓参り、帰省、実家、お供え物、迎え火、そして渋滞。 そう、毎年のことながら大渋滞の下界。しかし、それは天国においても同じことでした。

  • お肌のお悩み 雉白書屋

    「ん? あら貴女、元気ないじゃない。それじゃせっかくのお肌も勿体ないわ。ほんと綺麗。瑞々しくて羨ましいわ」「そうよねぇ! 私なんて肌カサカサで、もー困っちゃ……あら? どうしたの?そんなに震えて、そ...

  • 女性のための相談所 雉白書屋

     ここは女性のための、とある人生相談所。そこにいる先生は男であるが、異性であるからこそ変に見栄を張らずに正直に相談できるというもの。 これが同性かつ自分よりも美人でスタイルもよければ収入や素敵な恋...

  • 新言語 雉白書屋

    「コッコ、ラタッ、カッカッカ」「コッ、ラタラタラタ、カッ」「カカカカッ! ラタッ、ラタラタカカカッ」「コ、カカカッカ、カコカコカオラタタカコッ、ラタッタッタタタン」「パキ、ペキキ、ポコ」

  • 墓場で遊ぶ子供たち 雉白書屋

     近年、公園には様々なルールが追加された。【大きな声を出さない】【ボール遊びしない】【走らない】などなどズラリと並ぶルール。 看板では足らずに、また強調するかのようにそこら中にラミネート加工の張り...

  • 俺のオアシス 雉白書屋

     昼休憩。会社のビルの屋上にて、俺は柵を背もたれにし朝にコンビニで買った惣菜パンをムシャムシャ食べていた。 ここは俺のお気に入りの場所だ。と、言うのも人が来ない。今日のように天気がいい日にここで食...

  • 先生、職員室に帰る 雉白書屋

    「もう知らない! 授業しませんからね!」 小学校教諭、白野美保は教室を飛び出すと、一度も振り返ることなく廊下を歩いた。その靴音からは荒んだ内心が窺える。 そして職員室に着き、自分の席に座ると机に突...

  • 俺のショートショート 雉白書屋

    「――さん? 聞いていますか?」「え、ああ、えっとここ」 ここはとある病院。丸椅子に座る男は「は? 声、ん? あんた」 男は目の前に座る医者の顔をまじまじと見つめた。まるで初めてのものを見る赤ん坊の...

  • しっちゃかめっちゃかはっちゃけた 雉白書屋

     俺は激怒していた。悪に、大衆に、制度に、世界に、とにかく全てにだ。そして、俺は必ず屈しないとそう決意していた。「待て! 止まれ!」 奴らも激怒していた。俺を追いかける国家の犬ども。敵を見誤り、善...

  • 動物の力を 雉白書屋

     古びた重々しいドアを開け、その男は建物の中に入った。ここは政府が支援している研究所。建物は古いが造りは頑丈である。雑草や蔦が生い茂る外だけではなく、中も暗くジメジメとした雰囲気。 ここで行われて...

  • 糧盗物語 雉白書屋

     その生物は夜、音もなく竹林に飛来すると、竹に針を刺し卵を産み付けます。孵化した幼体は食欲旺盛で、穿孔し奥へと身を潜めながら竹の内側を餌とし成長しやがて十分な大きさになると

  • はい、勝ちー 雉白書屋

    俺「なぁ、ゲームしようぜ」お前「はぁ? まあ、お前がいいならいいけど」俺「店員か客か選べ」お前「ふぅん? じゃあ店員で」

  • 私は優秀 雉白書屋

     ……なるほど。訳が分からない状況だがいくつか分かったことがある。今は夜。場所は道路。そして問題、頭の中がぼやけている。 ああ、恐らく気絶したのだろう。そしてそう、私は優秀だ。なぜならこの状況でも私...

  • 俺の株 雉白書屋

    「いやー、ケンジくん! お疲れ様です!」「あ、どーもでーす、しゃちょー」 俺は五人組アイドルグループ。シャイニングイーグルの一番人気メンバーにしてセンター。「いやー、ケンジくん、大活躍! 株価上が...

  • 言葉とは 雉白書屋

    「……いやー、昨日の親睦会お疲れ様!」「課長もご苦労様っす、でも今時あるんすね。取引先の企業と野球なんてすげー疲れましたよ! 気ぃ使うしさーあー」「うー、うん。お疲れ様……。え、君、気を使ってた?」「は...

  • 彼がガスマスクをつけた理由 雉白書屋

    「起立! 礼! 着席!」 とある小学校。朝の教室のホームルームにて担任のアンリは下げた頭を上げた瞬間、我が目を疑った。「えっと……その席はミノルくんね。ね、ねぇ、その格好はどうしたのかな?」 クラス...

  • 幸運の天使 雉白書屋

     とあるところに一人の青年がいた。彼は今、血走った眼で必死に何かを創ろうとしている。まさに鬼気迫る表情。寿命を削るように一心不乱にただひたすらに……。 と、その様子を見て、心を打たれた者がいた。 幸...

  • 立てこもり 雉白書屋

    『た、大変なことが起きました! た、立てこもりです!ご覧ください! 今、私の目の前にあるホテル!そこで病院から逃走した凶悪犯が立てこもりをしているのです!』 俺はテレビを見下ろし、ほくそ笑んだ。自...

  • 鰻屋で見る格差社会 雉白書屋

     繁華街の一角に構える鰻屋『源海』その道五十年の店主が備長炭で焼き上げた鰻は外サクサク中フワフワ。言わずもがな、こだわりのタレはまさに秘伝。舌に溶けだした旨味が体内に行き渡っていくのを実感すること...

  • その声 雉白書屋

     とあるアパートの部屋。横になり、ダラダラと過ごしていた一人の青年。何か起きないかなと、大きな欠伸を一つ。その時だった。『――えるか』「ん?」『聞こえるか?』「え、え? 誰、ど、どこから、いや、頭の...

  • くじ引き 雉白書屋

     休日に賑わう、とあるショッピングモール。買い物を終え、外に出ようとした男はいくつかの風船とその下の立て看板。『くじ引き』その文字に目を奪われ足を止めた。 ガサゴソとポケットの中を探る。確かここに...

  • おはよう 雉白書屋

     その青年はどこかこそばゆい感じに体を揺らし、電車が来るのを待っていた。彼は高校生。今朝、珍しく早起きし、身支度を整えた彼はダラダラするのも何だからといつもより早めに家を出た。 とは言え、目にする...

  • おひとり様 雉白書屋

    「おひとり様ですか?」 はーい。ほーんと、よく聞かれる言葉。うんざりするほどに。友達も恋人もいない女の身には、けっこう刺さるものがあるよね。 もちろん、周りは別に気にしてないってことくらいわかって...

  • 黒いあの虫 雉白書屋

     自堕落な生活をしていた男がいた。すでに完全に堕ちきった後かもしれない。這い上がる気力はない。何にも。人生にも鉄パイプが飛び出した折り畳みベッドにも。 床に敷いた丈足らずのカーペットの上に寝そべり...

  • 風習に追われ 雉白書屋

     目覚め。一日の始まり。 着物に着替えて初詣。おせちと七草粥を食べる。 鏡餅を木槌で割り、破片と一緒に豆をまく。 雛人形を配置し、お花見を開始。 仏像に甘茶をかけつつ、鯉のぼりを立ち上げ、五月人形...

  • 彼女に魅入られ…… 雉白書屋

     ある町に息を呑むほど美しい女がいた。 顔に体、髪、声。完璧な美しさとはそのどれが欠けてもズレても成立しないのだと見た者は知った。

  • 呪いの木裁判 雉白書屋

    「……それでは開廷します。被告人は……えー、まあ、人ではないか」 裁判長が呆れたようにそう言うと室内に嘲笑的な笑いが湧き出た。その中で唯一、真面目な顔をしたままの者が口を開いた。

  • 人間転送装置 雉白書屋

    「さてと、ん? エミコさん、どうされたんです?」「……あ、いえ、その……少し怖くなってしまって」「怖く……?」「はい……その、それが」「ああ、たまにいるそうですね。でも心配ないですよ。映画館で映画が始まる...

  • 少年が求めたもの 雉白書屋

    「ああ、ナキム! ナキム! どこへ行くというのだナキム! 戻ってこーい!」 島の大人がナキムの行動に気づいたのはもうその姿が二本の指でつまめそうなほど小さくなった後だった。 自分で拵えたイカダの上...

  • 大停電 雉白書屋

    「うわ!」「きゃ!」「何だ? 停電か?」「そう……みたいね」「おーい、ウェイター! おーい!」「……来ないみたいね。きっと動けないんだわ」

  • オルゴン座の閉幕 雉白書屋

     繁華街の並びに構え、人々から長年愛されてきた映画館『オルゴン座』が建物の老朽化及び経営不振により閉館する運びとなった。 当日、最後の営業ということでオルゴン座の前に集まった人々は誰も彼も常連面し...

  • 活き造り 雉白書屋

    「きゃー」と彼女が悲鳴を上げたので俺はマジか、と思った。次にあの口からひねり出される言葉は屁に似た音じゃなければ『かわいそー』だ。「かわいそー」 ほらな。くだらなすぎて反吐が出そうだ。カウンターの...

  • セックスアンドロイド法に反対 雉白書屋

     とある会議室。そこで繰り広げられる舌戦は時間が経過するごとに白熱化していった。「だ・か・ら! セックスアンドロイド法には反対です!」 そう声を上げるのは『女性による女性のための会』の代表のミチコ...

  • ウミウシ 雉白書屋

     新築のマンションに引っ越したので遊びに来いと言われたから来たのに友人は何も用意していなかったと言い残し、慌ただしく部屋から出て行った。 くつろいでくれとも言われたが、部屋にはテレビもソファーもな...

  • 月下の孤独 雉白書屋

     光。光。光。光剣のように伸びる幾本もの光が闇を裂く。 それに驚き、今跳ねたのは秋の兆し、蟋蟀。避けたのは蝙蝠。水溜まりに飛び込んだのは蛙。 夜を退け、草を踏み歩く行軍。 それをはるか遠く、山頂近...

  • ある一座 雉白書屋

     昔、人気のサーカス団があった。『あった』と言うからには今はない。これはその一座が何故なくなったのかというお話。 その一座は町から町へ渡り歩くように興行していた。人気の演目は主に男が務めていたが、...

  • 惚れ薬 雉白書屋

     とある研究所。博士は机の上にコトッと置いたその瓶を見つめニヤついた。「ふー、ようやく完成まで漕ぎつけたな。いやはや、時間はかかったがその価値はある。何せ惚れ薬だからな。副作用なし、効果は永続。こ...

  • 心中失敗 雉白書屋

     ん……ここは……どこだ? 白い……天井。学校の保健室……を想起したということは……病院だな……。そして、ベッドの上……ということは俺は……。 何てことだ……。 ああ、声が聞こえる……。 看護師か……。 ドアが開いてい...

  • スタタベンタ 雉白書屋

     いつ頃からか現れたよスタタベンタ 新種の虫らしいよスタタベンタ 羽があって小さいよスタタベンタ

  • 深夜の客 雉白書屋

     夜中。ショウタはクラシック音楽をかけ、一人、部屋でくつろいでいた。 ご機嫌な鼻歌が部屋に舞い、程良い眠気を誘う。  と、その時。  ノックの音がした。

  • 看板 雉白書屋

    「と、ごめん! 遅くなって」「ああいい、いい! ほら、座った座った!」「いやー、久々に遊ぶっていうのに遅れて悪いな」「いいさ。俺、普段喫茶店なんて行かないからさ。コーヒーで優雅なひと時って言うかそ...

  • 日本一周、その後 雉白書屋

     ――まずは日本一周、おめでとうございます! あ、ありがとうございます! いやー大変でしたねぇ。沖縄から始めて北海道まで行ってまた帰ってくるのは。 ――達成したご感想は? いやー、人の温かさとかが身に...

  • 懐の深さはチップの多さ 雉白書屋

     経済を回し、この国の景気を回復させるためには何をすればいいのか。 一つに、貯蓄を吐き出させることにある。そう、単純明快。お金を使わせればいいのだ。 そこで密かに打ち出された政策。 それは……チップ...

  • 君と密接俺の密室 雉白書屋

     好いている、あるいは好きかけている女の子とロッカーなどの狭い空間に閉じ込められるというシチュエーションが漫画などにある。  ……そう、ロッカー。まさしくここはロッカー。 そしてピッタリと体を密着さ...

  • 公共放送 雉白書屋

     インターホンが鳴ったのでドアを開けてみると見知らぬ奴がいた。 恐らく全員に向けるであろう一律の笑顔を浮かべ、なんとも薄気味が悪い。 ここに引っ越してきて初めての来訪者なわけだがそれゆえに俺はコイ...

  • ワニ族 雉白書屋

     都心からバスを乗り継ぎ、かけること三時間。カチコチになった尻と体を解放してやれることに喜んだのも束の間。この険しい山道には参った。 しかし、木にロープで結びつけられた矢印看板を見た瞬間、その疲れ...

  • ミス 雉白書屋

     会社のトイレに子持った俺。髪がないことに気づいたが時すでにお寿司。なるようになれと尻を噴かず、ズボンを揚げ、個室から出ると手を洗った。 木が重く、足鶏も股重い。おまけに頭痛が痛い。 俺はわざわざ...

  • 隔たった世界 雉白書屋

    「うわ、高いですね先輩」「……ああ、そうだな」「落ちないように気を付けないと、ってははは! 当たり前か!」「……ああ、そうだな」「……っす」 高層マンションの窓拭きのバイト。高い所は好きなほうだし、何な...

  • 鬼、来たる 雉白書屋

    「ああ、やばいやばい……」「おにがくるおにがくる……」「ああ、あ、あ、ない、ない……」 スーパーに入った瞬間に、青い顔して呟くスーツを着た連中を目の当たりにした俺はここもか、と圧し掛かる絶望に背を曲げた...

  • 絞めたい首 雉白書屋

    「ねえ……首絞めてもいい?」 男はまたか……と思ったが、嫌な素振りは一切見せずに頷き、スッと首を差し出した。「……ぐっ」「あ、ごめんっ、絞めすぎた?」 女がパッと手を放し、ショックを受けたように自分の口...

  • 温暖化問題 雉白書屋

     急遽開かれた地球温暖化対策会議。 発起人は著名な発明家(元、と付けてもいい。最近じゃさっぱりだ)でもあり日ごろから地球温暖化を強く訴える、オレンティン博士。 各国の環境大臣や記者や大企業の重役や...

  • 工事の苦情 雉白書屋

    「はい。こちら――」「市役所だな?」「ええ、はい。そうでございます」「工事の苦情で電話したんだが」「あ、はい、ですがそれですと工事業者に――」

  • わが社はジャングル 雉白書屋

     わが社がジャングルになった。俺にも意味が分からないが、なったのだからなったのだ。 理由をつけるなら、社員の誰かが持ち込んだ謎の植物が異常成長を遂げたのか放置していた南米の謎の果物の種が芽を出した...

  • ぶつかりおじさん 雉白書屋

     とある駅構内。二人の女が並んで歩いていた。「なはははははっ! でさー! 彼氏がね! ん? ミサキ? どうしたの?」「……エミ、つけられているわ」「え? つけられ、え? 何を――」「エミ! 右斜め前に...

  • ある雪夜の顛末 雉白書屋

    【吹雪く夜。古びた山小屋。風で窓が音を立てる。ドアの隙間からは冷気。 室内は狭い、しかし暖炉の灯りは端まで届かず奥行きがあるように思わせる深い闇が陣取っている。 四人はガタついた木の椅子を持ち寄っ...

  • 転校生を紹介します 雉白書屋

    「えー、今日は転校生を紹介しま、あ」「えー! 転校生だって!」「いいじゃんいいじゃん!」「どんなやつー?」「男だといいな!」「えー、女の子がいいわよ!」「スポーツできるやつがいいなー!」「やったぜ...

  • 予定外の参加者 雉白書屋

    「あ、あれ……ここは……」 目を覚ました僕がいたのは知らない部屋。ドアは一つ。大きなモニターが一つ。そして、知らない人が一、二……五人。「目覚めたようだね。君も誘拐され、ここに連れて来られたのだろう?」...

  • 第十等室 雉白書屋

     しがない出版社のルポライターのこの俺、海藤と同僚の山野は編集長の命令で豪華客船の旅に出ることになった。 が、ケチな編集長は一等室のチケットは一枚しかないと言う。奴は編集長室でひらひらとそのチケッ...

  • 校長先生の受難 雉白書屋

     とある高校の校長室。模様替えを終えた校長は一息ついた。 時期外れの着任で慌ただしかったがこれでよし。うーむ、この部屋も私も威厳溢れているなぁ。モリモリだ。 それにしても、髭を生やすのが間に合って...

  • 貪婪 雉白書屋

     あたしが好きなもの。 ペットの猫。名前はミィ。パパが名前をつけなかったからあたしが決めたの。 フワフワでね、抱きかかえるとすっごく温かいの。ミィもあたしが好きみたいでペロペロ甘えてくるのよ。 そ...

  • 結論から言うとこのお話はゲームのお話なんですけど、と言ってもゲームの世界のお話じゃなくて要するに現実のあっ、と言っても勿論フィクションでしてあとゲームって言ってもそんなに楽しいものじゃなくて命がかかっ 雉白書屋

    『これより、諸君らにはデスゲームを始めてもらう』 は? 地下シェルターのような雰囲気の場所。俺の正面、数百メートル先にはドアが一つ。そして後ろには巨大モニター。どうやらそのモニターに映っているあの...

  • マスターベーション・インフォメーション 雉白書屋

     マスターベーション。オナニー。自慰。せんずり。シコる。抜く。オナる。ひとりエッチ。マスを掻く。自家発電。セルフプレ……セルフプレジャー?手淫。自涜。シコシコ。ズリセン。シゴく。  ……ふぅ。言い方だ...

  • 水筒にジュース、床にチョーク 雉白書屋

    「あ! お前、それジュースだろ! 禁止されてるのに、いけないんだ!」「はぁぁぁい! 残念違いますぅー! ほとんど水ですー薄めてまーすぅ!」「クソッその手があったか!」 5月中旬。クラスの男子たちの会...

  • あたしたち、入れ替わっ 雉白書屋

     ああ! 大変、遅刻しちゃう! 急がないと――あ。「きゃあ!」「うわ!」「頭いたた、ちょっとどこ見て……え、この声、あれ、服が」「いてて、そっちこ……え、これ、え?」「あたしたち……」「俺たち……」「「入れ...

  • わらしべ長者の藁 雉白書屋

    「へへへ、まさか俺もここまで来るとはなぁへへへへ」 むかしむかし、とあるところに、一人でニヤニヤする男がいました。だらしのない顔。が、それもそのはず。彼は一本の藁から物々交換を経て、この立派な屋敷...

  • たこ焼き450万円 雉白書屋

    「はい、たこ焼き、おおきに! 450万ね!」「お、じゃあ、この500万円玉でよろしく」「あいよ!」「なぁ……」「ん? 食う?」「いや、まあ、いらないけど……お前さ。よくあんなノリ平気だな」

  • ポケットの中のビスケットは 雉白書屋

     午後過ぎの公園。四人の子供が地面に座り、話をしていた。「あー、なんか腹減ったな」「なー、あの店行くか? ほら、あのビルの隣の」「いや、あそこもう閉店したろ。そもそも金もないし木に生えてる柿とか蜜...

  • 転生先の世界 雉白書屋

    「……あ、あれ、ここは……確か俺、そうだ。トラックに轢かれそうになった女の子を突き飛ばして……」「ええ、それで貴方は死にました。よって」「お前を異世界に転生させてやろう」「え?」「え?」「え?」「……つま...

  • 小学生の本気 雉白書屋

     事件は午後三時付近に起きた。場所は小学校の通学路となっている住宅街、道路。 そこで一人の小学生が『じゃあね!』と大声で言った。丁字路であり、そこが別れ道なのだろう。もう一方の小学生も『じゃあね!...

  • 狼に育てられた少年は 雉白書屋

    「ジョンソン博士。本日は遠いところからお越しくださり、ありがとうございます」「いや、いいのだよ。私としても興味深い。それでこの廊下の先かね? 例の少年がいる部屋は」「ええ、そうです。狼博士と名高い...

  • 凱旋パレード 雉白書屋

     地元にヒーローがやって来る。いや、帰って来ると言ったほうが正しいだろう。そう、凱旋パレードである。 観光資源も何もない小さな町だがそれゆえにアメコミのヒーローが治安の悪い地域で誕生するように彼は...

  • 痩せ続ける男 雉白書屋

     体重計の前に立つとフッと笑いが込み上げて来た。 これは自分に対しての笑いだ。「おいおい、何をビビっている?」と。 最近、体が重くなった気がしていた。体感での予測は二、三キロ、最大でも五キロ増しと...

  • 潜入! 闇ブリーダーの実態 雉白書屋

    『ザ・地球の朝焼け 第百五十一回 ~闇ブリーダーを照らす~』  とある日の早朝、ペットビジネスの闇に切り込むべく我々取材班が訪れたのは錆びたトタン外壁のこじんまりとした家。 ただし庭は広いようで大...

  • 因縁の終着点 雉白書屋

    「やーやーやーやー! たのもうか!」 快活な声が道場内に響く。皮膚、腹から臓腑までに達したその声はどこか心地良くもあり、恐ろしくもあった。「わしは平野山之介と申す者! 立ち合いを申し込みに来た!」...

  • シュリンクフレーション 雉白書屋

     値上げ。それは思考と趣向の放棄。愚の骨頂。 それは誰の言い分か。消費者という評論家か。 何にせよ、値上げが疎まれているのは事実。ゆえに企業は努力する。いかに消費者に気づかれずにお値段据え置きのま...

  • 往年のライバル、その対談 雉白書屋

    「ん、何? ここ? この椅子に座ればいいのか?ああ、カメラマンはそこね。ん? ははは、意識しなくていいって?」「おいおいソファーを用意してくれよまったく……」「がははは! 色々とキツそうだなぁ友よ」...

  • テレビインタビュー 雉白書屋

     ……我ながら思い切ったことをしたものだ。あの時のことを振り返ると心臓がバクバクする。正直、どうかしていたとさえ思えてきた。 だが、上手く行くような気もしているから不思議だ。 男は電気もつけずにその...

  • 万引きGメンのG 雉白書屋

     とあるスーパー。一人の女がはたと足を止め、通路の先にいる女性を凝視した。 ……あ、あの人、やる、やるわ! ……やった!やっぱりやったわ! 間違いなくやった! よーし、声を……。「やめておきなさい」「え...

  • 切腹でござる! 雉白書屋

    「大変申し訳ございません! かくなる上はこの渡瀬、この身その骸を入れた棺桶で御社と弊社の架け橋となるべく切腹を……!」 この男、渡瀬はそう言い、床に膝をつき頭を下げた。 相手はやれやれもういいよとい...

  • クローン人間の法 雉白書屋

     ――カチッ 朝、時計の長針が動いた音で彼は目覚める。 欠伸一つせず、スッとベッドから起き上がった彼は衣服を全て脱ぎ捨て、洗濯機の中へ。ドラム式で特に大きな透明の蓋をしたものだ。 回る洗濯物を少しの...

  • 聖塔 雉白書屋

     夕焼け空の下。親子ふたりが並んで歩いていた。手は繋いでいるが無言。子供のほうはまだ幼いがどことなく気まずい空気を感じとっており、何か話題はないかと辺りをきょろきょろ見回す。「……あ、おとーちゃん!...

  • 伝統工芸の保存 雉白書屋

     とある古びた工房。そこにやって来た一人の男が戸を開け中を覗き込むようにして言った。「あのー、ごめんくだ、あ、お師匠さん」「……あんたに『お師匠さん』だなんて言われる筋合いねえよ」  頭に白いタオル...

  • 飢え穴 雉白書屋

     あれだけ続いた酷い豪雨が今日、嘘のように晴れた。土砂崩れが起き、家が流された者もいたが幸い、地元の小学校の体育館に避難していたので犠牲者は出なかった。 とは言え、そう喜べるものではない。村人たち...

  • あの子のマフラー 雉白書屋

     冬。雪はまだだけど空気に触れた肌がピリピリ痛いほど寒い。 そろそろマフラーを買わなきゃ。去年、どっかでなくして「まあ、暖かくなったしいいや」と思ってまだ買ってなかった。 手袋で覆った手を首に当て...

  • あいうえお 雉白書屋

     ――あ―― あ、あ、あ、ああ、ああ、ああ! ああ! あああああ。あああああ。 ああ。ああ。ああ。あああああ!

  • 上司への挨拶 雉白書屋

     静かな夜だった。そう、『だった』だ。 知り合いたちが私の家にドタドタと駆けこんできてゴロゴロしていた私は驚いて飛び起きてしまった。 あまりの大人数と勢いに気圧され、ここでは狭いからと一先ず外で話...

  • 二度目のインタビュー 雉白書屋

    「いやあ、この前はすまなかったねはははは!わざわざ来てくれたのにあんな感じで終わってしまってなぁ、ははははは!」 と、やたら笑う博士に合わせて俺も、ははははと笑ってみせたが前回のインタビューは本当...

  • お前、俺の心を読んでいるな? 雉白書屋

    (ふー、良い午後だっと……ふうん。お前今、俺の心を読んでいるな?俺にはわかるんだぜ。何せ俺も持つ者だ――)(おどろいたな。お前も能力者か)(え)

  • ダブルブッキング 雉白書屋

    「……えー、上田源一郎さん。あ、まずは我々、夜七時からの報道番組『ニュースダブルセブン』のインタビューに応じてくださりありがとうございます」「あいあい」「えー、なんとここ、ご自宅にいらっしゃる上田さ...

  • 新妖怪の悩み 雉白書屋

     暗がりにボウッと佇む人のような一軒のバー。存在そのものが希薄で目を離した瞬間消えてしまいそうなそんなバー。 路地裏の奥なのもそうだが人間が立ち寄ることはない。そこはまさに隠れ家。夜も明るい現代社...

  • ザ・職人 雉白書屋

     職人の朝は早い。 一日の始まりとして朝日を浴びながらの体操は欠かせない。健康的な体を維持してこそ、いい仕事ができるというもの。食生活も言わずもがな。気を遣う、が栄養価の高い食事をふんだんにとはい...

  • 喫煙者の国 雉白書屋

     ついにタバコ一箱の価格が二十万円になった。と、言っても急にこれほどの高値になったわけではない。 ある時、馬鹿な政治家が馬鹿なりに知恵を絞った結果タバコの税率を上げた分だけ支持率が上がると気づいた...

  • 壁の神話 雉白書屋

     箱のような部屋があった。 白く、全方位が壁。入口がなければ出口もない。じっと見つめているとそれが上なのか横なのか自分がどこにいるのかわからなくなるといった錯覚に陥る。照明がないのに適度に明るい。...

  • オノマトペ 雉白書屋

     ブロロロロロブーン。 ブウウウウン。 ブウウウウウウウン。 カッチカッチカチカチカチブウウウン。 キキキー! プップッー! ドタドタ! コロコロ! ドタドタ! チッ! イライライライラ。  ブウ...

  • 相談事 雉白書屋

     とある町に小さな社があった。社自体はかなり前からあるものだが、近年、綺麗に建て直されてからというもの訪れる町の者が絶えず、手入れやお供え物など大事にされていた。  が、それには理由があった。なん...

  • 羅列歩き 雉白書屋

     歩道、アスファルト、シミ、ヒビ割れ、凹凸、空き缶、ビニール袋、風、寒い、吸い殻、雑草

  • 垂れ幕男 雉白書屋

     この夜、俺は野球場に来ていた。野球など興味がないにもかかわらずだ。それは草野球にしろ、このプロ野球の試合にしろ変わりない。むしろプロ野球には昔、試合時間の延長だとかで後続の番組を潰された恨みしか...

  • マナー違反! マナー違反! 雉白書屋

     とあるスタジオ。そこにつくられた居酒屋のようなセットの中でタレント及びエキストラがワイワイガヤガヤと賑わいを見せる。 それをそのセットの外の席から見つめる二人の女。 そして司会者の男が息を吸い込...

  • クレーム対応 雉白書屋

     とある町にある小さな会社。そこにいる男。社長なのだが、はあ……と、ため息。 目の前の机の上には鳴り続ける電話。相手は分からないがどういう用件か想像はついている。 度重なるクレーム。そろそろ事業の存...

  • 歴史に残る名勝負 雉白書屋

    『さあ、今夜の試合、ここ一番の大勝負!打てばサヨナラ逆転ホームラン! 投手が抑えればそこでゲームセット! 両チームの勝敗が掛かっていますっと、おおおっ!?ああっと、危ない! デッドボール! バッタ...

  • 旅行の計画 雉白書屋

     とある国のホテルのラウンジ。そこに二人の男女がいた。「この旅行も、もう終わりだな……」「ふふふ、なに言ってるのよ。飛行機までまだ時間はあるじゃない」「あー、うん……」

  • 買い食い王 雉白書屋

    「おーい、トオルくーん! もー、探したよー!」「え、あ、ごめん……その、えっーと」「あ、僕? 僕はジュンイチ。ほら、トオルくん、今日が転校初日だから君と家が近い僕が一緒に帰ってあげなさいって先生が言...

  • 下を見る 雉白書屋

    「あははは! あははは! バーカ! あはは!」 自分が近づいたことで、ぴょんと草の上から跳ねたバッタが川に飛び込んでしまい流されていくその様を目にし、その少年は大笑いした。

  • 楽園、その追放者 雉白書屋

     ゆらりゆられて漂い、良い気分。ここが極楽浄土、生命の根源。命の揺り籠。母なる…… なんだ、急に波が、あ、しまっ――

  • 言葉の変遷 雉白書屋

     ――ピンポーン。 インターホンが鳴るとパタパタとスリッパの音がした。そしてドアが開く。「あらあら、おかえりなさい」「ああ、ただいまオフクロ」

  • 【あ】 雉白書屋

    【 】を失った。それが何かはわかっているが、口に出すことも考えることもできない。 私自身、突然の事で驚いている。と、言っても脳の疲れか何かで、一時的なものなのだろう。そう恐れず、様子を見ることにし...

  • ギフテッドキッド 雉白書屋

     ノルウェーで生まれた彼は、両親の仕事の都合で三歳でアメリカに移住した。 すでにその時から高い知性を発揮していて故郷と別れる際、死別した妻の姿をその瞳の奥に浮かべる老紳士のような哀愁すら漂わせてい...

  • 新カードゲーム開発 雉白書屋

     昨今のカードゲームブームは凄まじい。 レアカードの値段が高騰。そもそもカードパックを買うこと自体、困難だと聞く。 そこで、ブームにあやかり、わが社にもカードゲーム開発部門が作られたわけだが……前途...

  • 井の中の蛙 雉白書屋

     井の中の蛙、大海を知らず。 その蛙は井戸の中で生まれ、そして育った。大きな蛙である。無論、種の枠組みから逸脱するほどではないが。

  • 台パアァァァァン! 雉白書屋

     その日の私はすごくイライラしていた。 授業中にもかかわらず喧騒満ちた教室。先生は諦めているのか嫌われるのを怖がっているのか知らないけど注意しようともしない。それが何だか無性に腹が立つ。大人のくせ...

  • お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか? 雉白書屋

     空港から外国へと飛び立った旅客機。 離陸してからしばらく経ち、どこかまどろむ空気感の中突然の機内アナウンス。客室業務員の慌てた声が機内に轟いた。『お、お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか!...

  • さよなら、さよなら 雉白書屋

     カチャカチャカチャとナイフとフォークの音だけが鳴っては、また沈黙が部屋を訪れる。会話はない。最後の晩餐というのはこういうものなのだろう。 妻との最後の夜。じきに迎えが来て、それで恐らく永遠のお別...

  • 娑婆の空気感 雉白書屋

     駅から町に出た男は頭上から降り注ぐ太陽の光から顔を背け、地面を見た。 目眩がしたのだ。しかし季節は春。それほど日差しは強くない。むしろいい天気だ。 にも拘わらず男は顔を歪めた。その理由。人、人、...

  • 綱引き 雉白書屋

     事件の場所は、小学校の校庭。その日、そこで町内運動会が行われていた。 地区を目安に町内、四つのチームに分かれ、優勝を争っていたわけだがそう厳格でもなければ殺伐ともしていない。 フラっと立ち寄り、...

  • 時間旅行 雉白書屋

    「ついにか……」 博士がそう呟き、手で軽く撫でたのはタイムマシン。とは言え、なんとも不格好で表面はツギハギだらけ。しかし博士はその感触さえ愛おしく感じていた。 ……と、そうのんびりしてはいられないと博...

  • 懺悔室に盗聴器を 雉白書屋

    「懺悔室に盗聴器を仕掛けさせてほしい」 とある教会にて刑事の男は神父に向かってそう言った。 共に影の中。教会上部の窓から向かい合う二人を分かつように日の光が差し込んでいる。言葉も音もない、時が止ま...

  • 祖父の宝 雉白書屋

     祖父が死に、遺品整理と片付けを頼まれた孫は二つ返事でやると答えた。 祖父への感謝の気持ちと愛情はそれなりにあったが、それが理由ではない。 遺産のお零れ目当て。父や叔父に媚を売るためと、祖父の宝。...

  • 盗賊……盗賊? 雉白書屋

     魔王討伐の旅の途中。野原で休憩を取っていた勇者一行。視界は広く、見張りの必要もないと羽を伸ばす四人。温かい日差しにウトウトし始める、穏やかな午後。こんな日もあっていいのだ。 と、そんな中、勇者が...

  • 汚ねぇ話 雉白書屋

     ……よぉ。初めに言っておくと、これはクソ汚ねぇ話だ。 まあ、回れ右して帰って貰ってもいいができればご勘弁、おっと、ご勘便してお付き合い願いたく思う。便だけにな。 はははっ、そうさ。寒い話でもある。...

  • 一人称 雉白書屋

     とある居酒屋。久々の再会を果たした三人は席につくと顔を見合わせ照れくさそうに笑った。 そして取り繕うようにメニュー表を眺める。「さて、何を飲むか」「まずはビールだろう」「僕はウーロンハイを貰おう...

  • ナイト・ナイト・トゥ・ナイト! 雉白書屋

    『はーい! 始まりましたナイト・ナイト・トゥ・ナイト!今夜も、ヒコミチお兄さんがリスナーたちの悩みを、あ、お、お、ああああ!あー……チッ、ああ、クソッ、マジかよ……あーあ……はぁ?あー、うわぁ……シミがあ...

  • 家に帰ってママの…… 雉白書屋

     とある町のとある学校。その校舎裏に集まった不良たち。野次馬で作られたその囲いの中、殴り合う二人。 その戦いも、もう終わりを迎えようとしていた。「オラァ!」「で、出た! 鬼束先輩の関節決めからの投...

  • 迷い鯨 雉白書屋

     鯨。鯨。河口付近に迷い込んだ一頭の鯨。 発見後、川の名前から『ミドちゃん』と誰が初めかわからないが、そう呼ばれ近隣住民を筆頭に、日を跨ぐごとに多くの人々を呼び寄せ、親しまれた。 潮を噴き上げれば...

  • 十二支って何がいたっけ 雉白書屋

    「……あ、寝てた。ふぅー……あ、いっけね。忘れた。ちゃんと決めたはずなのになぁ、いやぁーははははは」「何がですか?」「うおっ! お、お前いたのか」「はい! 私、一番になれたのが嬉しくて嬉しくて、もう一...

  • パ、パパのミルク……? 雉白書屋

     荒野にある小さな町。そこに一軒しかない小さな酒場。 扉が開けられた瞬間、店内にいる者たちの視線が一斉にその男に注がれた。 この町の住民は余所者の匂いに敏感だ。 血を好むコヨーテとハゲタカの集まり...

  • 妻を人質に取られているんだ! 雉白書屋

     電車の中。窓の外の空はやや赤みがかり仕事終わりだろうか、乗客の中にちらほらスーツ姿が見受けられる。 高校生に中年、親子もいれば老人もいる。 幅広い年代、性別、様々な立場の人間が一堂に会する時間帯...

  • 貧弱な暴漢者 雉白書屋

     酷く生ぬるく、空気が湿った夜だった。 夏の日差しで温まり、少し藻が生えた水槽の中を泳ぐ金魚。それも弱り、横向きになっている。死んで腐り、水を汚される前にいっそすくって庭にでも埋めてやろうか。……な...

  • 飲み会文化 雉白書屋

    「あ、ソレ! ソレ! ソレソレソレソレ! かぁんっぷぁぁぁーい!」 この夜。名も知らぬ一軒の居酒屋の座敷席にて新入社員歓迎会を兼ねた飲み会が行われていた。  と、まあ、店の名を知らないのは暖簾をく...

  • マッチはやはり売れず 雉白書屋

     酷く寒い夜。こんこんと降っていた雪は先程止んだがそれが何の慰めになるというのか。薄い靴の底から降り積もった雪の冷たさが、吹く風がこれでもかと少女の心と体を冷やす。 マッチいりませんか?  どなた...

  • 竜巻の中 雉白書屋

     小学一年生の時にこの町に越してきて、約十年。今年の春から町を出て大学生になるというのに俺、死んだ。 いや、正確には生きているが死ぬ。間違いなく数秒後、あるいは数分後に。 わからない。わかるはずが...

  • おじさんストリート・ストーリー 雉白書屋

     ある町の通りが夜、立ちんぼで賑わっているとテレビのニュースで知った俺は仕事帰りにちょっと様子を見に行ってみることにした。 無論、賑わっていると言ってもワイワイガヤガヤお祭り模様という訳ではなく並...

  • 橋が架かる 雉白書屋

     橋が架かる。橋が架かる。 島と本土を繋ぐ白く大きな橋。 その橋の上、中央で並び手を握り合う市長と島の長。それに国会議員。 赤いテープに鋏の刃を当て、頭上にはくす玉。さらにその上は分厚い雲。 開通...

  • 金のなる木 雉白書屋

     ある日の午後。太田は溜まった有休を利用し新たな趣味として登山を始めようと思いさっそく、山に入ったわけだが……どうも道を一本間違えたらしい。歩けども歩けども平坦な道。山頂へ続いているわけではなさそう...

  • ハミントンの黙劇 雉白書屋

     エムスタル校に春が来た。 春は出会いと別れの季節。芽吹き、そして良くも悪くも行動を起こす時。 街で不審者が捕まったというニュースもチラホラと。 そして、この学園内にも大それたことをしでかす者がい...

  • テレポート事件 雉白書屋

    「ああっ、いいっ、いっ、いいっ! いいわハルヒコさん! ああっ!」「いい、だろ? う、く、はぁ、う」 ハルヒコ。性別男。年齢三十二歳。職業会社員。独身。だが結婚間近。相手は自身が勤める会社の社長の...

  • ものまねオーディション 雉白書屋

     階段を上り、辿り着いたドアの前で深呼吸。開けると……ははは、まさにって感じだ。 ここは都内某スタジオ。そう『某』だ。マネージャーから渡された地図を見てやって来た、何の変哲の無い外観のビル。その中の...

  • 餓鬼が笑う 雉白書屋

     俺は何とも言えない時間というのが嫌いだ。小学生の頃、遠足。集合時間は過ぎたが遅れている生徒がいたためしばし、その場で待機。 そう、あの時間だ。待ち時間と言えばそうだが、ふざけていたら教師から怒声...

  • 店員と客 雉白書屋

    「こんな単純作業もミスするなんてどういう頭しているんだ。ただ厨房から料理をこのテーブルまで運ぶだけだろう」「はい……すみません」「すみませんじゃなく、誠に申し訳ございませんだろう!」「はい、誠に申し...

  • 革命者 雉白書屋

     夜。とあるバー。そこに来たある男。歳は三十代。一般的には働き盛りで金も稼げるようになってきたころ。 ただ、その男はやけに羽振りが良く、高い酒ばかりを注文し、ご満悦であった。何でも今夜はお祝いだそ...

  • 溝口家、墓を建てる 雉白書屋

     溝口家の大黒柱、溝口父には昔からの夢があった。 それは墓を建てることである。 ある夏、溝口父もとい溝口少年は墓というものに憧れを抱いた。 そのきっかけは教科書に載っていた歴史上の人物の墓の写真で...

  • 作者より頭の良いキャラは作れるのか 雉白書屋

    『作者は自分より頭の良いキャラクターを作ることはできない』  昔からそんな言い回しがある。 いやいや、そんなことはないだろうと言いたいところだが残念ながら事実である。 尤も、世に数多いる書き手を侮...

  • 100階建てタワーマンション 雉白書屋

     そのニュースを目にした男は思わず身を乗り出しテレビ画面、そのテロップを凝視した。そのため折り畳みテーブルに膝をぶつけ、缶ビールを倒したがまったく気にはならなかった。瞳から脳へ文字が焼き付く。『100...

  • マニュアル社会 雉白書屋

     とある電車の中。駅から発車し、そう間もない頃。ふと、一人の少年がその老人に気づいた。つり革につかまり片手には杖。「あ、席どうぞ」「……はぁ」 ため息を吐く老人。中学生くらいであろうその少年は一瞬、...

  • 宇宙放送協会 雉白書屋

     ――ピンポーン インターホンが鳴り、男は気だるそうに玄関に向かった。今日は休日。昼に起き、これからご飯を食べようかと思っていたところだった。 予定のない訪問。セールスか勧誘か。なんであれ、良い客と...

  • 五時 痔 雉白書屋

     とんでもいことが起きた。俺はこの事実をすぐに伝えにいかければならない。 そう思い、コピー室から出た俺は全力で走りオフィスにたど着いたときには息も絶え絶え。深呼吸しうとしたら咳き込だ。「どしたんだ...

  • かくれんぼ 雉白書屋

     夏の終わり、夕方。いつもの帰り道を歩いている時のことだった。 どこからか子供の声が聞こえ、俺はあれ? っと思った。と、いうのも今しがた道の端へ寄る際にチラッとうしろを振り返り車や自転車が来てない...

  • 人格抹消刑 雉白書屋

     ある時。ゾンビの集団のごとき人権団体の執拗な主張は国民を巻き込むことに成功した結果ついに通り死刑どころか終身刑まで廃止という運びになった。 囚人たちは狂喜乱舞し、一方で選挙のための国民の人気取り...

  • 美しすぎる死体 雉白書屋

     その死体は県境の山の中で発見された。 発見者は登山を楽しんでいた老夫婦、その妻。登山道をややはずれ、野花を愛でていたときのことであった。 通報を受けて駆け付けた両県警はどちらがこの事件の捜査の主...

  • 田中税金泥棒 雉白書屋

     税金泥棒か否かを巡る裁判が始まった。ブルブル震える被告人。彼の名は田中。元国会議員で政務活動費の不正受給及び政治資金パーティーのつまりは献金を少なく報告するなど彼はとにかく私腹を肥やすことばかり...

  • 来訪 雉白書屋

     自宅近くにあるラーメン屋が今月末に閉店してしまうというので行ってみた。 カウンター席のみの小汚い店。白いテーブルはくすみ、汚れが目立つ……と見渡したところで、そう言えば随分前に一度だけ来たことがあ...

  • 不幸の手紙 雉白書屋

    「これを六日以内……もし……不幸……」 ……ああ。読んでいるうちに声を出してしまうのは俺の悪い癖だ。だが幸いにも今はアパートの部屋に一人。気味悪がられることもない。 しかし、まさかこの時代に不幸の手紙の類...

  • ヤサイマシマシニンニクマシマシアブラマシマシ 雉白書屋

     真冬。大雪が降るこの夜の気温は天気予報によるとマイナス十六度。堪えられないわけではないが、それは家の中なら無論の事歩いたり、走ったり、スキー、つまり動いていればの話だ。  俺は今、ただ立って列に...

  • 校長先生の長いお話 雉白書屋

     小学校校長、蒲田篤弘は今では併合し、名を失ったある田舎町で生まれ育った。 五人兄弟の末っ子の蒲田校長は幼少の頃より虫や雑草といった身の回りの物に興味を抱き木造校舎の小学校の図書室から借りた図鑑を...

  • 死者に一日の猶予を 雉白書屋

     昼間の街中。ふらふらと歩くその男を見て、目を見開く通行人たち。 仰け反り、ビルの壁に背中をぶつけた主婦らしき女性。 手を合わせ、念仏らしきものを唱えたお婆さん。 うおっと、声を上げた会社員風の男...

  • あの、ファンなんですけど…… 雉白書屋

     お笑い芸人っていうのは素晴らしい職業だと思う。 だってそうだろ? 人を笑わせる、楽しませるってやつらだ。慈愛の心ってのに満ちたもんだろう。最高だぜ。 ま、じゃあ笑わせられない芸人はどうなのかって...

  • 迷信 雉白書屋

     朝。その浜辺で子供が上げた悲鳴は頭上に広がるどんよりと雲に覆われた灰色の空に跳ね除けられたように周辺に轟いた。それを聞き、なんだなんだとポツポツと人が集まってくる。 海近くのとある町。いや、村と...

  • 生きる資格試験 雉白書屋

    「うへぇあ~おめぇーにはぁ生きてる資格はねぇ! って言われちっあたよぉ~!」 ある夜の町。とある酔っ払いがそう言った。誰も聞いていない、ただの泣き言。「僕には生きる資格はないんだ……」 これはある中...

  • 歴史的瞬間 雉白書屋

    「やーやーどうもどうも、みなさん。記念すべきこの日にお集まりくださり、どうもありがとう」 快晴の空の下、博士が一歩前に進み出てそう言うと観衆の声は一層大きなものとなった。 その理由、博士のうしろに...

  • 顔を伏せて手を上げて 雉白書屋

     はい、みんなちゅうもーく。さあ、机に顔を伏せるんだ。 そうだ、早く帰って遊びたいもんな。先生も小学生の頃、そうだったよ。でな、帰りたいならなこの帰りの会を終わらせなきゃならない。 うん、そうだ。...

  • 笑いは壁を壊す 雉白書屋

    「ホンマお前、ええ加減にせいや!」 ――バシィ! え……なんだ、ここ、え、これ、なんだ?「固まるなや! なんとか言えや!」「お、俺は芸人。あ、相方と漫才、初単独ライブ中で」「いや、それみんなわかっとる...

  • 適材適所 雉白書屋

     むかしのこと。猿に親を殺され復讐に燃える子蟹は同じく猿を疎ましく思っていた者たちに助力を求めました。 集まったのは栗と臼と蜂と牛糞です。同じ志を持つ仲間。敵討ち隊の結成です。 さあ、まずは作戦会...

  • むかしむかしは…… 雉白書屋

     むかしむかしのはなし。 バズーカ、ライフル、ガトリング砲、戦車。鬼ヶ島を前に提供された潤沢な武器を手に、ほくそ笑む桃太郎。 金太郎はジープを乗りこなし、熊の大群を引き連れ山を荒らす者を撃退。 老...

  • 宇宙の膨張 雉白書屋

     ある日、全てが横に伸びた。 そう、全てだ。ビルもマンションも車も木も人も犬も猫もネズミもゴキブリも海も空も大地も全てが伸びた。

  • 桃の子 雉白書屋

     むかしむかし、おばあさんが川で洗濯していると、どんぶらこ、どんぶらこ、と…… 人が流れてきた。 うつ伏せで、手足は力なく伸びきり、それが死体であることは明白であった。 おばあさんは洗濯を中断し、両...

  • 勝手に押さないで 雉白書屋

    「あっ」「……やっ、ちょっともおおおおおぉぉぉぉぉいたぁぁぁぁぁぁーい!やだもおおぉぉぉぉ! あーん! ほんといたい! やだやだぁもぉぉー!」 嫌い、私はこの人が。『嫌い』その言葉が身を乗り出すよう...

  • ある日の新聞 その見出し 雉白書屋

     総合面 見出し 「国内原発最後の一基廃止決定」 経済面 見出し 「新エネルギーの躍進止まらず株価上昇傾向」 国際面 見出し 「近隣各国権利を主張」

  • 節約係 雉白書屋

     広大な宇宙空間を行く宇宙船、ステラクスラ号。その長い旅路の果てについに……  乗組員の不満が爆発した。「せんちょぉぉぉう……もう限界です!」「な、何がだね、マリーくん」「ヤマダですヤマダ! あたし、...

  • マネキン 雉白書屋

    「おはよう」 挨拶。毎朝のことながら、彼のそれは形式的なものではなく気持ちを込めたものであった。 ただ、その相手は人ではなかったのだが。 デパートの一階にある洋服売り場。それが彼の持ち場。多少、上...

  • 手のぬくもり 雉白書屋

    「あ……先生……あの、手術は……」「お目覚めですね。ええ、手術は無事成功しましたよ。体の調子の方はいかがですかな?」「ええ、大丈夫です……ふふっ」「ん、どうされましたか?」「いえ、絶対成功すると思っていた...

  • 壁の心臓 雉白書屋

     ある夜。肩を落としながら自宅に帰った男は度肝を抜かれた。 リビングの白い壁に生肉が張り付いていたのだ。 赤黒く、ところどころ白くて、そして数箇所にゴムホースの先っぽのようなものがついている。見つ...

  • ドッペルゲンガー 雉白書屋

    「あ、よお」「お……うん」「なにしてんの?」「彼女待ち。今日、委員会みたい」「へぇー、ああ、その荷物」「そ、ここに置きっぱだから」「あそ。一人で暇じゃね?」「まー、別に。待つのは好きだし。ん? その...

  • 誰が書いたかその恋文は 雉白書屋

     ……彼と私。もう長い付き合いになる。そう、長い長い付き合い。その出会いはまあ、よくある話。パソコンね。うん。 苛められ沈んでいた私に彼は光を当ててくれた。見つけてくれたの。 愛想なく黙っている人間...

  • ある研究の結果と経過 雉白書屋

    「やったぁぁぁぁ! こ、これでつ、ついに完成だぁ! やりましたよぉぉぅ! ふぉおおう! 嬉しいぃぃ! えへへ、喜ぶのは当然じゃないですか! せんせぇ!ついに、実ったんですよ! 僕らの努力が!  う...

  • 魔導炎滅紅蓮放射真血鬼竜煉獄砲 雉白書屋

    「なあなあ」「ん?」「少年漫画とかでさ、あるだろ、必殺技」「ああ、あるな。それが?」「……俺さ、できるようになっちった」

  • 口汚い宇宙人野郎 雉白書屋

     その男はボロアパートの部屋に入ると、ふんと鼻を鳴らし、荷物を降ろした。 男は出所したばかり。新たな始まりの時と言ったところ。しかし、それは決して更生、これからは良い人間として生きようというもので...

  • タヌキの葉っぱ 雉白書屋

     ヒック! と声を漏らし、夜道を歩く男。 泣いて顔を真っ赤に、というのはあながち間違いではないが手に持っているのは缶ビール。酔っているのだ。フラフラとした足取りでその男は公園に入り、ベンチに座った...

  • お願いします 雉白書屋

    「たのむよぉ~ん! お願いだよぅー!」 夜、駅前でそう声を上げる男がいた。「お願いしまっす! このとーりぃ!」 手を合わせたり土下座したり、遠目に見ても情けない顔をしていると分かる。中年男性、髪は...

  • 最初の魔女が燃えた 雉白書屋

     嘲笑めいた笑い。怒声、罵声、早く早くと急かす声。嬌声、これは尻を撫でられた女。煽る煽る。触った酔っ払いが囃す声。すすり泣く声、そしてまた笑い声。 その中、最初の魔女が笑った。 火刑台に括り付けら...

  • 部屋にいた幽霊 雉白書屋

     ……出たよ出た。出やがったよ。ボロアパートだし安かったから、まさかとは思ったが出やがった。ゴキブリじゃない。いや、押し入れで死骸は見つけたが今は関係ない。  幽霊だ。幽霊が出やがった。

  • しゃっくりを出し続けた少年 雉白書屋

     とある小さな町、一人の少年がいた。彼は運動、勉強、見た目、どれも平凡で特にこれといって取柄がなかった。尤も他の子供同様、将来はどんな才能を見せるかもわからないが彼はそう、まだ子供。大局的見地など...

  • 貧乏神に魅入られて 雉白書屋

     とある町の、とある小さなバー。そこにいる彼はこのバーの「マスター……ふふん、俺はバーのマスタァーふふふふふっ」 彼は脱サラし、このバーを開いたばかり。時折触るその髭はまだ短いが、いずれはきっちりと...

  • 雉白書屋

     死んだ、死んだ。 抜け殻見下ろしそう思った。 だが込み上げる解放感にそう長くはその場に留まろうと考えなかった。 傷みも不自由もない。良い気分だ。 浮かび上がり空を泳いだ。 笑い、笑い、喜びを体現...

  • 赤ちゃん言葉 雉白書屋

    「上野さん、これアーウーに、あっ」「え?」「あははは、ほら、赤ちゃんのアレ、出ちゃったよ」「ああっ、ふふふっ。赤ちゃん言葉ですね。何かと思っちゃいましたよ。係長、赤ちゃんがいらっしゃるんですね」 ...

  • うしろに並ぶ 雉白書屋

     夜中。家に帰る途中、神社に寄った。 別に何か願い事があるわけじゃない。そもそも神など信じちゃいない。一応、挨拶のつもりでお参りはするつもりだが、ただの酔い覚まし。 この神社はそこそこ広く、周りを...

  • たたかないでほしいにゃ 雉白書屋

     叩けば直る。家電にはそんなジンクスがある。と、言っても私にはしっくりこないけどね。昭和生まれ。お母さんの時代の話。それに加えて我が家では『脅す』というものがある。「調子悪いねぇ。買い替え時かぁ……...

  • タイトル 雉白書屋

     今、あなたは一行目を読んでいる。目線を左下に。 ここは二行目だ。 三行目を読み、次は四行目だ。

  • 家鳴り 雉白書屋

    「でさー! アイツが――」 真一が木造二階建てアパートの友人の部屋に上がってから、およそ二十分が経過した。手に持っているビールから泡が消え去り、もう飲む気がないにもかかわらずお守りのように大事に握っ...

  • 交通事故 雉白書屋

     夜中、男はその十字路に近づくにつれ、バイクの速度を落とした。 背中に嫌な汗をかいている。当然だ。男はつい一週間前にその十字路で接触事故を起こしたのだ。 相手は老婆のようだった。そう、『ようだった...

  • パンダ、帰る 雉白書屋

     彼、パンダ。その名は『フェンフェン』彼は『デイデイ』と『ヨウヨウ』の間、この国で生まれ育ったものだが当時レンタル中だった親パンダの所有権は向こう側、レンタル元にあるゆえ子もまた同じということで追...

  • 違和感 雉白書屋

     ……朝、目覚めた俺は何かがおかしいことに気がついた。 これは寝起きだからではない。 何かが確実に変だ。そう、どこか気持ち悪いのだ。 この誰かに覗かれているような感覚……まさか実際に覗き行為が、いや盗...

  • 第二次性徴 雉白書屋

    (お題 【猫】【目覚まし時計】【チョコレート】) ――ジリリリリリリ 目覚まし時計の音。一日の始まりを告げる憂鬱な音。小学生の時から使い続けている文字盤にアニメキャラクターが印刷されている子供っぽい...

  • あの子 雉白書屋

     私にはどうしても忘れられない親友がいた。仲違いしてもう三年になる。 ほんの些細な勘違いから始まったその擦れ違いは、断層のように私たちを隔て気づいた時には、もう修復不可能。胸に刺さった棘は黒ずみ、...

  • 服を脱がしても……いいかい? 雉白書屋

     夜、川田はキャバ嬢とホテル街を歩いていた。足取りがおぼつかないのはズボンの中のモノが猛り、膨張しているからであったが酒に酔った振りでごまかしつつ、でも取り繕う必要もないかぁとニヤつく。 そして彼...

  • たいようのした 雉白書屋

    「おーい、こっちだぞーおいでー」「はーい!」 きょうはかぞくみんなでぴくにっくにきました。その、のはらにはほかのひとたちもたくさんいて、みんなえがおです。 はしるとかぜをかんじ、とまるとたいようの...

  • 黒塗り 雉白書屋

    「だからね、あなたのその■度が駄目だって言うの。今はね、全員一丸となるべきじゃない? ねえ、聞いているの?」「え、あ、はい」「はぁ……あなたね、いい? よく■いて、あのね――」 とある中学校の職員室。説...

  • 求めた未来 雉白書屋

     夜中。とある研究所。博士はひとり、ああすれば、こうすれば……と悩み呟いていた。 物事に没頭しやすく、一度集中すれば寝ることも食べることも忘れるような博士であったがさすがに物陰からぬるりと現れた男を...

  • 幸運な男 雉白書屋

     幸運な男がいた。いや、本人は自分がそうだとは確信を持っていなかったが少なくとも人からはそう思われ、呼ばれてもいた。 なぜなら彼は幾度となく、不運から逃れていたのだから。それも命を落としかねない大...

  • 我が家のしきたり 雉白書屋

    「ただいまー! 連れて来たよぉー!」「はいはい、あらぁいらっしゃい!」「ふん……」「あ、あのぼ、僕はお、お嬢さんとお付き合いさせていただけている者です!」 夜、高梨家にやって来た上田はボウリングのピ...

  • ある見世物 雉白書屋

    「く、来るなぁ! 誰も近寄るなぁ!」 とある町の橋。そこで一人の男が欄干の上に立ち、声を張り上げていた。 来るなと言われるとなんだなんだと集まるのは人の性。男を囲むように遠巻きに三日月状の人だかり...

  • 不法投棄 雉白書屋

     山を買った男がいた。と言っても広さはサッカーコート一つ分ほどで当然、手入れなどされておらず交通の便など、なんだそれ? といったぐあい。山に囲まれた山の中。切り売りされ周囲はまた別の人の土地。 買...

  • 誰の1000万円か 雉白書屋

    『……母がね、間違って捨てちゃったみたいなんですよぉ』『いやぁ、酔っていて落としたみたいでねぇ』『うちから盗まれたものなんですよ!』『多分、私のだと思うんですけどね』『俺のですよ! 俺の! 絶対! ...

  • 怨毒の澱 雉白書屋

     ……ここは実にいい。食料が豊富だ。 それにあいつらはこの俺に怯えていやがる。だから自由気まま。やりたい放題だ。仲間もどんどん増える。そのうちもっとデカいことができるぞ。 ああ、ワクワクするなぁ。そ...

  • 正直な記者会見 雉白書屋

    「記者の方々、本日はお集まりいただきありがとうございます」「えー、東海新聞です。さっそく質問よろしいでしょうか」「どうぞ」「まず、今回の騒動について、どうお考えでしょうか」「質問は具体的にお願いし...

  • ぬいぐるみにペニス 雉白書屋

     彼女にプレゼントしたクマのぬいぐるみ。前から欲しがっていた彼女はかわいい、かわいいって喜んでくれた。 本当にすごく気に入ってくれて、彼女は僕の名前をつけたんだ。僕がいないとき、部屋でギュッと抱き...

  • 整合性 雉白書屋

    「はぁ……」「ただいま」「……おかえり」「元気がないな。あ、また酒を……」「当然でしょ……? なに急に。普段はガレージに籠りきりのくせに急に妻の事が心配になったの? やめてよね、はぁ……」

  • 音がする 雉白書屋

     音がした。と言っても音というのは常にしているものだ。そうだろう? テレビの音。パソコンの音。冷蔵庫の音。虫の声。風の音。外を歩く酔っ払いの声。 いつものこと。気に留めることはない。そう、足音と同...

  • 感情殺し 雉白書屋

    「うぉい! こっちに来い!」 俺が奴の髪を掴むと奴はうぐぅと声を上げた。そのまま床にたたきつけてやると奴は仰向けになり、俺と目が合った。「こ、こんなことしたって無意味だよ……」「それは俺が決めること...

  • ゼネル島の神 雉白書屋

     何ものにも汚されぬ、青く美しい海。 ここは安息地。魚たちが集い、交わり、命をはぐくむ。その恩恵に預かるゼネル島の民たちは決して敬意を忘れず彼らを必要以上に捕ろうとはしない。神の恵みに感謝し、太陽...

  • 妄想の女 雉白書屋

     男がいた。セミダブルのベッドの端のほうに。エレベーターの落ちる瞬間、あるいは崖の下を覗き込むようなヒュッと肝が冷える感覚が常にしている。嫌だ。なのになぜ彼が端にいるかと言うと……「んごおおおぉぉぉ...

  • 夜を廻る 雉白書屋

     深夜、道を歩いていると…… ブン! ブン! と何かを振るような音が聴こえ、足早に向かった。 音の正体は少年の素振りであった。野球には詳しくはないが中々いいフォーム。しかし、なにかおかしい。 そう思...

  • ロケットがのせる 雉白書屋

     見上げる、見上げる、空を見上げる。その向こうの宇宙を見上げる。 そして首を下ろし見つめる先は国の威信をかけた大きなロケットだ。 先進国の手を借りず、一から作り上げたロケットだ。 現場に集まった人...

  • 禁肉 雉白書屋

     筋トレの際の基本や注意事項及び心構えのようなもの。 その一、正しい姿勢で行う。 その二、筋肉痛のときは無理はしない。 その三、痛みが特に強いときは控える。 その四、過度なトレーニングは逆効果であ...

  • 花が咲いたよ 雉白書屋

     また花が咲いた。  ある日、私の首に咲いた花。 初めて見つけた時、茶色くて小さくてイボかと思ってすごく嫌だったけどやがて緑になって気味が悪くなってでもそれが開いて蕾だったと分かると私は嬉しくなっ...

  • 父の背中 雉白書屋

     目を覚ますと誰かの背中にいた。 大きな背中だ。汗をかいているのか少し湿っていて、それに熱かった。しかし、不快ではなく、むしろ心地よかった。そのことから今、自分を背負っているのは父だとそう思った。...

  • コピーロボット 雉白書屋

    「えっと、これでいいんだよね……と。へへ、いや、可愛いっ!そっくり! すごー! これ本物の皮膚? な、わけないか。ゴムだよね。と、静かにしなきゃね。……でもあんた、本当に大丈夫? ママのカードをこっそ...

  • ニュートーキョー 雉白書屋

     ニュートーキョー、ニュートーキョー。 僕の私のみんなの街。ニュートーキョー。 笑顔とありがとうの街。ニュートーキョー。 ハローとセンキューを忘れない街。ニュートーキョー。

  • 地上は楽園 雉白書屋

    「なぁ、なぁ、寝た? もう寝た?」「……ふふっ、なんだよそのノリ。テンション高いな」「いやさぁ、今日さ、映画を観たんだよ」「そりゃ観るだろう。暇つぶしはそれかゲームくらいしかないからな」「いや、もう...

  • 影の王 雉白書屋

     人類。それは賢く強大であり、破壊と創造の申し子。他生物を捕らえ食し、また管理し、神を差し置いて地球の支配者たる振る舞いをしている。 ……だが、違う。支配者などではない。 真の支配者、影たる王はそう...

  • あの手が止める 雉白書屋

    「……うおっ、お、おお!? あっ」 男はそう声を出したあと、慌てて口を閉じた。当然だ。今、自分がしようとしたことを考えれば目立ちたくないに決まっている。だが、動揺は抑えられかった。それも仕方のないこ...

  • 道路工事 雉白書屋

     ようやく家の前の道路の工事が終わった。……かと思えば、ツギハギのデコボコクソ道。車に轢かれた犬の糞が、そのツギハギの隙間に挟まってやがる。年度末に予算を使い切るために、わんさか適当に工事しているん...

  • 言い訳の仕方 雉白書屋

    「きみぃ、あのね、いくら本社から来たといってもねこの調子じゃちょっと困るんだよぉ、そろそろ君の能力を――」「い、いや、あ、あのですね部長様。ええ、ええ、仰りたいことはよくわかりますとも、ええ。部長様...

  • ある結末 雉白書屋

     ここ、オームドランドは夏場は特に糞みたいな臭いがするが私にはとっては都合が良い町と言える。 創作意欲が刺激され、脳が震える。いや、別に糞の臭いが好きとかそういうわけではない。断じて。 実際、脳を...

  • “俺” 雉白書屋

     朝。目を覚まし洗面所に行き鏡を見た、ぼ、俺は驚いた。 ……頭に変なものがついている。 デカイおたまじゃくしみたいのが両サイドに二つずつ。黒くて寝癖かと思ったけど触ってみると硬い。イボ? 粘着? ク...